病室にて
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貫いたように感じた。その途端に眼頭が熱くなり、涙が溢れてきた。顔は俯いたままだった。上げることなど彼には出来なかった。
「お前の事は兄上に任せる。お前はしっかりした子だ。私達なしでも、きっとやって行ける」
「私を、伯父上に・・?」
「ああ、先程承諾した。私がお前の後見人になる。若しくはお前を私の養子として迎え入れる」
父の言葉にアルブレヒトが目線を向けると、伯父は頷いてそう言った。
「兄上、愛する者を得るのも人生の幸福ですが、今、もう一つの幸福を感じた様な気がします。」
「なんだ、それは」
伯父がかすれるような声で尋ねる。
「子供を託せる様な家族を持つ事ですよ、兄上」
アルベルトは兄に向って穏やかな表情で微笑んだ。その後、伯父は夜風に当たってくると言い、二十分ほど部屋を留守にした。
「マリア様、アルベルト様」
「お久しぶりですね、ベアトリクス様。大きくなられた。益々御母様に似られた」
ベアトリクスがベッドに近づくとアルベルトは懐かしむような笑みを浮かべた。彼女の鳶色の目には、すでに微かな大きさの涙が浮かんでいた。アルブレヒトの背中が、初めて会ったよりも小さく、悲しげに思えたからだ。その光景が彼女の涙腺を押し潰した。
マリアが招くような動作で、ベアトリクスを近づけた。
「息子を、よろしくお願いします」
短い囁きだった。だが、それが死にゆく母が残される子供を案じた言葉であるのは、彼女にも理解できた。彼女は、それを経験していた。彼女は瞳に涙を溜めたまま小さく頷いた。
その短いやり取りを、アルブレヒトは知らない。余りにも小さく、彼の意識がそこまで意識が回らなかったからだ。
食事を取るため、二人は食堂に向かった。味は勿論、何を食べたかさえも、アルブレヒトは覚えていなかった。苦々しさと悲しみ、無力感のサンドウィッチを食べているようにしか思えなかった。
彼は、両親の病室に戻るまでの廊下で赤い髪を持つ二人の主治医に出会うと彼の部屋に招かれ、病状の説明を受けた。
彼とは幼少時にアルブレヒトが風邪を引いた際、世話になったので面識があった。そしてこの医師フランツ・フォン・ゼッレ軍医少佐はアルベルトの中等学校以来の親友だったのである。
「アルブレヒト、アルベルトは遺伝子の病だ。何らかの外部影響が遺伝子に作用して発作が起こり、著しい衰弱を招いたのだろう。これまでは表に出ることはなかったんだが、その原因が分からない。母上は末期の癌だ。彼女の気が付かないうちに進行していたようだ」
「・・直す術はないのですか。フランツさん」
アルブレヒトの言葉にゼッレは黙り込み、唇を噛みながら言った。
「・・残念だが治療方法が存在しない。仮に研究するにしても公には研究はできない。“劣悪遺伝子排除法”に該当する・・・」
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