第2部
ランシール
二人の距離
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広場に戻ると、ユウリがいなかったからか、すでに人だかりはなくなっていた。むしろ今は屋台の方に人が並んでおり、この辺りは人も疎らで先程に比べると大分静かだった。
「少し休むか」
ユウリは近くのベンチを見つけると、そこに腰を下ろした。私もおとなしく彼の隣に座る。
「……ありがとう。助けてくれて」
自分でも驚くくらい低い声だった。ユウリはいつもと違う私の様子に気づきながらも、視線で返す。
「……財布を盗られた以外に、何かあったのか?」
いつになく優しい声をかける彼に、冷えきっていた心が溶かされるような感覚を覚える。いつもの無表情ではあるが、私のことを気にしてくれているのがわかった。
あまり思い出したくないけれど、いつまでも心の中に閉じ込めておくのは私の性分にあわない。私は意を決して、さっき遭ったことを彼に話した。
「……」
話し終えると、すでにユウリの表情が険しくなっていた。私が恐る恐る彼の反応を窺っていると、向こうも私の顔を窺っていることに気づいた。
「……俺に話すのも、辛かっただろ」
大丈夫、と言いたかったが、そこで虚勢を張れるほど大人ではない。私は素直に大きく頷いた。
「きっとお前は財布を盗まれて後悔してると思うが、悪いのはお前じゃない。あのクズだ。だから、これ以上自分を責めるな」
「……っ!!」
その言葉に、今まで我慢していたものが堰を切って溢れ始める。それをきっかけに、一度収まっていた涙が再び溢れだしていった。
「うぅ……。怖かったよぉ……!」
今まで張りつめていた気持ちが一気に解放され、私は人目も憚らず泣き出した。開き直るかのようにわんわんと泣くその様子は、まるで駄々をこねた子供のようだ。そしてその間ユウリは、何も言わずただ隣で見守っていた。
やがてひとしきり泣いて落ち着いた私は、涙でぐちゃぐちゃになった顔をハンカチで拭う。
「お前……。あとで鏡見てみろ」
「え?」
ユウリの一言が気になってしまった私は、近くにある噴水に近づき、自分の顔を覗き見た。そこには目の辺りが真っ赤に腫れ、濡れた髪が頬に張りついている、不気味な顔が映っていた。
「なにこれ……酷い顔だね」
「自分で言う台詞か」
ベンチに座ったままのユウリに間髪いれずツッコミを入れられ、私は思わず笑ってしまう。
「やっと笑ったな」
そう言って私のそばにやって来ると、ユウリはどこか安堵した様子で私を見返した。もう彼に心配をかけるのは終わりだと頭を切り替えた私は、若干照れながらも無理のない笑顔を見せた。
「へへ。せっかくのお祭りだもん。いつまでも泣いていられないよ」
「そうだな。俺なんてまだ屋台を回っていないんだからな」
「う……、それは本当にごめんなさい」
そうだ。ユウリは地球のへその到達者として皆の前で話をしていた
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