第2部
ランシール
お祭りの夜の胸騒ぎ
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あの人に見つかったら、何をされるかわからない。
「……」
そんな私のただならぬ様子を見て、ユウリは口元を引き結んだ。そして、私の目をまっすぐに見据え、
「じゃあ、一緒に来い。お前にそんな顔をさせた奴を野放しにするわけには行かないからな」
そう強い口調で言うと、震える私の手を取り走り出した。
するとほどなく、さっきの悲鳴に気がついたのか、こちらに急いで走ってくる足音が聞こえた。ユウリも彼に気がついているのか、何やら呪文を唱え始める。
目の前の曲がり角に人影が見えた時だ。
「ギラ!!」
呪文を唱えた途端、ユウリの手のひらから炎とは言い難い威力の火の帯が放たれ、私を追いかけてきた男性に襲いかかった。ベギラマよりも威力の弱いこの呪文は、戦闘中は敵を攻撃するよりも、目眩ましなどによく使われる。
「ぎゃああっ!!」
まともに顔面に火花が当たったらしく、男性はたまらず目を覆い、揉んどりうって倒れた。
そしてユウリは私から離れると、すたすたと倒れている男性の近くまで歩み寄り、何のためらいもなく無言で思いきり顔を蹴り飛ばした。
「ぎゃああっっ!!」
「ユウリ!?」
それからユウリは何度も、悲鳴を上げ続ける男性の胸ぐらをつかむと容赦なく殴り続けた。その目は普段魔物を倒しているときとは違い、いつにもまして冷徹に見えた。
「も、もういいよ!! ユウリ!!」
彼の様子にただならぬものを感じた私は、慌ててそう口走る。私の叫びが耳に届いたのか、ユウリはぴたりと手を止めた。そしてすでに気絶して倒れた男性のそばにしゃがみこみ、彼の服の中を探し始めると、私の財布を取り出した。
「これで間違いないか?」
「う……うん」
私が頷くと、ユウリはその場で財布を私に向かって放り投げた。受け取った瞬間、さっきの出来事がフラッシュバックされ、再び泣きそうになる。
あのとき財布を盗られなければ、あんな怖い目に遭わないで済んだのに。もっと周囲に気を配ればよかったんだ。
後悔ばかりが頭をもたげて、やるせない気持ちになってくる。
すると、いつの間にか私の目の前に立っていたユウリが、今放り投げた財布をひょいと取り上げた。
「いつまでも持ってないで、早く鞄にしまえ。でなければ俺が預かる」
「しまう!! しまいます!!」
私は慌てて財布を取り戻し、鞄にしまった。ユウリに預けてしまったら、お金に厳しい彼のことだ、そう簡単に私に渡すことはしないだろう。
「こいつが目覚める前に、ここを離れた方がいいな」
そう呟くと、彼は再び私の手を取り、この場を離れた。
そして広場に戻る間、私はずっと自分のしてきた行動を後悔していたのであった。
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