第2部
ランシール
お祭りの夜の胸騒ぎ
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そのまま店へと案内してくれた。
だが、お店へと続く道は、とても狭く、暗かった。こんなところに本当にケーキのお店なんかあるのだろうか? と少し不審に思ったが、親切なこの男性のことを無闇に疑うなんて、このときの私にはそんなことなど考えられなかった。
やがて行き止まりまでたどり着くと、目の前にはとても店とは言えない、どうみても普通の民家が建っていた。
「あの、本当にここってお店なんですか?」
「ああ。こういう小さな町には、一見普通の家みたいな外見の店って多いんだよね」
そうなんだ、と一人納得する私。確かに専門店ならわざわざ店を大きくする必要性はないだろう。
すると、店の壁際に、なにやら布のようなものが無造作に捨てられていた。
あの色、どこかで見たことがあるような……。
「さあ、中に入って」
ギイッ。
私の思考を遮るように、男性はゆっくりと店のドアを開ける。中は明かりが点いていないのか、真っ暗だった。
「随分暗いですね。ほんとうにやってるんで……」
ドンッ!!
するとそのまま、店の中に押し込むように、私の背中を強く押したではないか。
「えっ!?」
バタン!!
男性が中に入り扉を閉めると、耳を疑うような音が聞こえた。
ガチャリ。
これは……、鍵がかかった音!
「なっ、何!?」
扉が閉まり、真っ暗闇となった店内には、私と男性の二人だけ。どういうことなのか状況が整理できず後ろを振り返ると、
「!?」
闇の中、突然男性の腕が伸びてきて、両肩を思いきり掴まれた。そして、体ごと壁に強く押し付けられた。驚いたのも束の間、男性は素早く片手で私の両手首を掴むと、身動きがとれないように私の頭の上で拘束した。
「なっ、何ですかいきなり!?」
抗議の声を上げるが、目の前の男性は薄気味悪い笑みを浮かべながら、私を品定めするように眺めている。その様子は先程までの爽やかな好青年とはうって変わって、私のことを見下しているように見えた。
「大人しく財布を盗まれるだけで諦めていればこんなことにはならなかったのにな」
男性は皮肉めいた口調で話し始めた。
「ど、どういうこと!? もしかして、財布を盗んだのって……」
「そう、オレだよ。さっきの話は嘘さ。他人のふりをするために、わざと服を着替えて別人に成りすました。きっとオレの後姿しか見てないと思ったからね」
そうか、店の隅に捨ててあった布は、彼が私の財布を盗んだ時に来ていた服だ。私が服の色を覚えていると思い、服を脱ぎ捨てて別の服に着替えたんだ。
私が真実に気づいた様子を見て、男性はフッと得意気に笑った。それが肯定を意味していることは、いくら世間知らずな私
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