第三章
[8]前話
街の外れの桑の木のところでだった、彼等は驚愕した。
「この髪の毛はピュラモスのものじゃないか」
「このヴェールはティスベーのものよ」
「どちらも赤く染まっている」
「まさか獣に襲われて」
二人の親達は狼狽した、そして。
二人が恋仲で自分達が仲が悪くて夜に密かに会っているうちに獣に襲われて食べられたのだと考えた、それでだった。
「こんなことになるなら喧嘩なんてするんじゃなかった」
「そのせいで二人が獣に食べられたなんて」
「何て酷いことになったんだ」
「どれだけ怖くて痛かったか」
彼等は嘆き悲しんだ、だが。
そんな彼等を物陰からこっそり見ていたライオンはイシュタルの神殿に入るとそこで二人に話した。
「いい頃合いだ」
「死んだと思っていた僕達が出て」
「それでお父さんとお母さん達を驚かせるのね」
「そして生きていたと喜ばせてだ」
ライオンは二人に話した。
「そこで自分達が吐き合っていることを言ってな」
「結婚したいとだね」
「言えばいいのね」
「そうだ、そうすることこそがだ」
まさにというのだ。
「イシュタル様の知恵だ」
「流石女神、そうお考えとは」
「それでは」
「それに乗ってだ」
そのうえでというのだ。
「そなた達は想いを適えるのだ、いいな」
「わかった、では」
「そうするわ」
「桑の実は赤い」
ライオンは自分が食べて触ったそれの話もした。
「そしてその赤はだ」
「血だね」
「まさにね」
「その血を使ったことだ、血ではないがな」
赤いと血と思う、そのことを使ってというのだ。
「やったことだ、ではな」
「今からお父さんとお母さん達のところに出て」
「そのうえで想いを適えてくるわ」
「全てはイシュタル様の思し召しだ」
ライオンは笑顔で頷いた二人をにこりと笑って送り出した、そうしてだった。
二人は幸せになった、古代のバビロニアから今に伝わる恋愛の話である。
赤い果実 完
2022・2・12
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