第三章
[8]前話
「どうかです」
「ここはですか」
「速やかに戻って」
大和にというのだ。
「家族の愛情を受けて」
「知識と知恵をですね」
「使ってです」
「家族を助けることですね」
「そうされて下さい」
「それでは」
狐も頷いてだった。
すぐに柿を食べてそうして三つの柿を上人が与えてくれた袋に入れてそれを首に下げたうえでだった。
大和に戻ろうとした、だが。
その前にだ、上人は狐にさらに言った。
「少し待ちなさい」
「どうしてですか?」
「貴女は元気を取り戻しましたね」
「はい、不思議な柿ですね」
狐は上人に応えて述べた。
「一個食べただけでみるみるうちにです」
「英気が出て来ましたね」
「先程までの餓えや疲れが嘘の様です」
「そうですね、ですが」
それでもというのだ。
「外は寒く先程まで弱りきっておられたので」
「だからですか」
「一晩休んで」
そうしてというのだ。
「朝にです」
「出られるべきですか」
「夜は私が看病させてもらいます」
上人は狐に優しい声で述べた。
「ですあら」
「今夜はですか」
「ゆっくり休まれて」
そうしてというのだ。
「行かれて下さい」
「それでは」
狐も頷いてだった。
その夜は上人の看病を受けたうえでゆっくりと休んだ、そうして朝になると上人に感謝の意を述べて大和に戻った。
この話は一先これで終わったが。
上人が朝廷に大僧正として迎えられ大仏の造営に携わる様になった時に聖武帝が上人にこう言われた。
「先日御坊の話を聞いて狐から話を聞いた」
「狐ですか」
「朕のところに参上してな」
帝は上人に微笑んでお話をされた。
「堂では随分お世話になったと、柿も貰ってな」
「あの狐ですか」
「うむ、流石は御坊だ」
帝は微笑んだまま言われた。
「狐を諭しそうして家族の愛情を戻すとはな」
「いえ、それは当然のことで」
上人は帝に恐縮して述べた。
「特にです」
「褒められることではないか」
「左様です」
「そう言うことこそ御坊の徳、このことは天下に御坊の徳そして御仏に仕える者のあるべき姿として伝えさせよう」
帝は高らかに言われた、そうしてこの話は天下に伝わり残ることになった。
以後大阪の松原では柿の木に残った最後の一個を行基の思し召しと言う様になった、それはこのことからであることは今も伝わっていることである。
四個の柿 完
2022・3・12
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