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TALES OF ULTRAMAN  鬼神の立つ湖
TALES OF ULTRAMAN  鬼神の立つ湖
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ん、どこいっとったんや。村の皆さんにこげな心配かけて――」
 堀兵衛の家は西の方から訳あって流れてきたということで、一家のものは皆、西方の訛りが抜けない。堀兵衛にしたって、あれほど長い年月を村で過ごしているのによくまあ家族の間でしか喋らない訛りがこうも身に着いたものだ。大悟はいくらか不思議に思っていた。
 しかし、なかの方もまくしたてているうちに、堀兵衛の口数がいつになく少ないのと、その顔色が異様にすぐれないことに気が付いたようだった。そのうちになかは叱責の勢いを失いみるみるうちに気づかわし気な表情をした。
「お前さん、どうしたね。森で悪いもんでも食うたか?それともなんか悪いもんにでくわしたとか」
 悪いもんに出くわしたか、という言葉を耳にした途端、堀兵衛がひぃっ、と小さく声を漏らした。それに驚いてなかや周りの村人達も少しばかりのけぞった。それから、大悟の側にすがりついていた美座伶が不意に口を開いた。
「おっきな獣を見たんだよ。それで堀兵衛、怖くなっちゃったの」
 大悟はその時初めて美座伶が怪物を目にしていたことを知って驚いた。あれほどの化け物を前にしても美座伶は声一つあげずにいたのだ。
「獣っていうとあれか?」
 鹿とか猪とか?村人たちの何人か何気なく口にした。
「いやいや、猪や鹿で堀兵衛がこんなにおびえることはねえべ。熊だよ、熊。そうじゃねえか?」
 すると、堀兵衛は思いきり首を振って言葉を振り絞ると喋り出した。
「そんな可愛いもんやない。あれは山や。山ほどの大きさの怪物が歩いてたんや。熊とも鹿とも違う、見たこともない顔しとった」
 そんな怪物がおるかいな、と村人たちはどよめいた。堀兵衛はそれでむきになり、声を大きくして言い返した。
「本当や。わしも美座伶もみた。大悟もや」
 そうやろ?と堀兵衛が大悟に訊くと、村人たちの視線が大悟に集まった。堀兵衛はともかく、大悟がそのようにくだらない嘘をつくものでないことは皆して承知していた。大悟は重々しくうなずいた。
「私も見ました。山の神の類かと思いましたが、それにしてはあまりに禍々しく、私たちはその怪物に見つからぬように木の陰に隠れて朝が来るまで待っていたんです」
 村人たちは再びざわめき始めた。大悟のいうことであれば、と真剣に驚きを表すものと、そんな馬鹿な話があるか、と口にして取り合おうとしないもの。そうしているうちに後の方からまた別の声がした。
「それは真か、大悟」
 声の主が前に進み出ると、ざわめきはやんだ。
 村人たちが一様に土と汗がにじんだような質素な色合いの衣に身を包む中で、汚れ一つない白い衣と赤い袴は光を放つように一際目を引いた。村の巫女、加魅羅(カミラ)だった。彼女が現れると、男達は皆そわそわと佇まいをなおした。無骨な性格の正一郎はどこか居心地悪そうな表情を浮
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