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TALES OF ULTRAMAN  鬼神の立つ湖
TALES OF ULTRAMAN  鬼神の立つ湖
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にしない。その間、堀兵衛が隣で身を振るわせて念仏を唱えるので、大悟は堀兵衛を小突いてやめさせなければならなかった。怪物の耳に届いたら洒落にならない。美座伶は身じろぎもせず、言葉も発しない。不思議なくらいに怯えている様子が見られなかった。
 しばらく身を隠すうちに大悟はついに気持ちを抑えきれず、木の陰から怪物の方を伺った。怪物は今まだそこにいたものの、こちらへは気づいていない。その時に、仄かな月明かりに照らされた怪物の姿を大悟は焼き付けんばかりに目を見開いて捉えた。怪物は岩のような肌付きをしていて、大きさは背をかがめていても小さな山の一つ分はある。頭の形はうちかえす波のようにそった妙な形をしていた。やけにぎらぎらとした目は月に照らされて、まるで人の目のようにはっきりとしていたし、口元の小刻みに並ぶ牙を見た時に、大悟は村で見た鮫なるものの絵を思い出した。大悟たちの住む村は海から遠いために鮫そのものを目にすることがない。なので、大悟の記憶に焼き付いた鮫の姿はどこかの絵師が誇張して書いたものだろう。それはちょうど目の前の化け物のように鋭い歯をいくつも持っていた。
 しばらくその怪物を覗き見ていると、懐で何かが小刻みに震えた。美座伶が拾ったあの神器だ。その時、大悟は理由もわからずに怪物がこちらに気付くような気がして慌てて身を隠した。実際、怪物が歩みを止め、身じろぎをしてこちらの方角を伺い始めたのが目で見ずとも気配でわかった。
「頼む、やめてくれ。奴に気づかれてしまう」
 大悟がもう少しのところで言葉に出しそうなほど強く念じると、やがて神器の震えが止まった。時を同じくして怪物は踵を返し、足音は徐々に遠のいていく。大悟は深く溜息をつきかけて慌てて押し殺した。その代わりに隣で堀兵衛が間抜けな声で溜息をもらしたので再び肘で小突いた。いつ怪物がこちらへ戻ってくるかも知れない。そう思って三人はそのまま木の陰に身を押し込めて潜んでいた。夜明けまではそれほど長くないはずだ、動き出すのは日が昇ってからにしよう。あれが魔物の類なら朝が来ればすっかり退散しているはずだ。大悟はそう願ったものの、果たして自分の知っている限りのことがあの怪物に通用するのか自信はなかった。
 大悟の考えた通りだった。しばらくののち空が白みはじめ、あたりの暗がりが薄くなってきた。鳥の声が辺りに聞こえてくると、少しずつ体に走っていた緊張も解けていく。知らない内に大分汗を書いていたようで、衣と束ねた髪の先が濡れて湿っていた。
 大悟と美座伶が身を起こして辺りを伺うと、巨大な怪物の気配はおろか、猪の子供一匹の気配さえ感じられなかった。けれども大悟がいくら声をかけても堀兵衛は木の陰に身を潜めて中々出てこようとしなかった。ようやく三人が帰路についた頃にはすっかり道は陽気に照らされてすっかり明るくなっていたので、も
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