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TALES OF ULTRAMAN  鬼神の立つ湖
TALES OF ULTRAMAN  鬼神の立つ湖
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兵衛が声をかけた。
「ちょいと待ちや、大悟。お前もと来た道から外れようとしとるで」
 そんなはずはないよ、と大悟はきっぱりと返した。木々の間から見える山を目印に歩いてきたので、大悟は背後の山を振り返りながら堀兵衛にこう言った。
「ここまで来るのに、確か山を前にしていただろう。だから方角はこれで合っているはずなんだ」
「いいや、そんなはずあらへん」
 堀兵衛は辺りの木々をしげしげと眺めて、一人で合点したようにうなずいた。
「来た道の木を目印代わりに覚えといたんや。これは柳爺の持っている杖に似ていたから確かに覚えとる。わしは見間違えたりせえへん」
 堀兵衛の言う通りだった。というのも、堀兵衛は村で一番物覚えがいい。その彼が目印を見紛うことは考えにくかった。しかし、だとすれば――。
「でもおかしいぞ、もし堀兵衛の言っている通りの方角だとすると来るときに山は見えていないはずなのに」
 それだと、山がずれているみたいだ、と大悟が口走ると、
「そんなあほな」
 と堀兵衛は声を漏らした。
 その時、先ほどから聞こえていたごうごう、という音がやけに近付いて聞こえた。それは地面を鳴らし、大悟たちのいる場所を震えさせるほどにまで大きくなっていたのだ。ひょっとするとあれは地鳴りだったのか?それにしては妙に長く音が続くものだ、などと大悟が考えていると、ふと顔を上げた堀兵衛が大悟の衣のそでを強く引っ張った。堀兵衛は顎が外れそうな勢いで口を大きく開けている。その顔を見て、大悟は半ば笑い出しそうになりながら訊いた。
「どうしたんだ、堀兵衛」
「大悟、あれ」
 堀兵衛がかすれた声を漏らしながら指さした先を見ると、大悟の顔から微かな笑いは消えて表情が固まった。堀兵衛の指さす先で彼らは山が起き上がり、もたげていた頭を上げ、その目を開くのを目の当たりにした。いや、正しくいえばそれは山ではなかった。山ほどの大きさの化け物が身を起こしたところだったのである。先ほどのごうごう、というのはおそらくこの怪物がすり足で動く音だったに違いない。
 大悟は美座伶がその怪物を目にしないうちに急いで自分のもとへたぐりよせ、目を覆い隠すようにかばった。もし、美座伶があの怪物を見て声の一つでもあげたなら、怪物は確実にこちらへ気づいてしまうだろう。おまけに大悟は今にも声を上げそうな堀兵衛の口も塞いでやらなければいけなかった。
 辺りを見回して身を隠せそうな場所を探すと、近くに根本にかがめばなんとか姿を隠せそうなほどの木が目に入った。よし、あそこに隠れよう。大悟は美座伶を抱き寄せたまま、それからなんとか堀兵衛を押し込むようにして木の根本の、窪んで陰になっているところに身を隠した。
 怪物のすり足は大悟たちのいる場所から大分近くを通りすぎるところだった。歩調が鈍重なせいで、中々その場をあと
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