そして今、私は勇者の前に立っている
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悪いのよ。私、貴方達がやったことをやり返しているだけ」
「何を戯けたことを」
男は米神に青筋を立てたが、尊大な態度を崩さなかった。
「お陰で魔鉱石は不足の一途をたどっている。大人しく罪を認めろ。悔い改める機会を作ってやろう」
「そんな機会、いらない。両親を殺した人間のいる所なんて行かないわ」
頭の中で、ぐったりと倒れた母の姿が過ぎった。念入りに手入れした自慢の黒髪が固い地面に投げ出され、汚されていく。
男は鼻で笑うと、おもむろに青い光をその手で握りしめた。
「ふん。皆、惑わされるなよ。………魔女よ、地面に膝をつけ!逆らえば、この命はない」
その言葉と同時に、ぎゅっと握られた光が不安定に光る。
「ぐ……っ、駄目よ、にげて………」
私は煤けた地面に膝をついた。
目の前の男はにやにやと笑う。大股で近づき、私の両手首に重い枷をかけた。
瞬間、
「ご苦労だったな」
男の手の中で、青い光が弾け飛んだ。
気づいた時には、何もなかった。
両親が遺した小さな家も、家を守るように立っていた木々も、青々とした草花も。
全てが白く灰に変わり、辺りは静まり返っている。
火の爆ぜる音、乾いた風。
漂う死の臭い。
頬をどろりと伝う、生温かいものは血なのか涙なのか。血だとして、誰の血なのかもわからない。
空に浮かんでいた厚い雲は過ぎ去り、淡い月光が地面をーーー 私の罪を照らしている。
ふと、虚な視界のなかで青く輝く光を見つけた。弾かれるように駆け寄り、地面に転がるそれを掴む。
青い石だった。
私は震える手でそれを眼前に掲げ、落とさないように、ゆっくりと口もとへ持っていった。
「……やっぱり、美味しくないよ」
目が熱くなって、空を仰ぐ。
三日月が歪んだ。
……そうだ。
その日からだ。
世界を、殺してしまおうと思ったのは。
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