そして今、私は勇者の前に立っている
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「今日は緑の石なのね」
次の日も。
「貴方の部屋って、本でいっぱいね」
次の日も。
「今日は赤い石?まぁ、綺麗」
次の日も、また次の日も。
「貴方、表情が柔らかくなったわね。……前?すっごいしかめ面だったわよ!」
「今日は青い石。あら、青ってことは、お揃いね」
あの日までは。
外が騒がしい夜だった。私は違和感を感じて窓の外を見やる。ぽっかりと浮かんだ三日月が、厚い雲に隠されてしまった、その時だった。
多勢の、人間の気配がした。足音を隠すこともせず、ただ規則正しくこちらへ向かってくる。
外に繋がる扉の向こうで、足音は不気味なほどにピタリと止んだ。
私は杖を持ち、ゆっくりと構える。
「東の森の魔女 ステラ」
男の声だ。答える必要はない。男は声高に言葉を続けた。
「我が重要な資源ともいえる、魔鉱石を違法に所有した罪。及び、王家に献上するブルー・アクアマリンを窃盗した罪により、貴様を連行する」
扉が激しく叩かれた。外では、王国兵士が待ち構えているのだろう。
「卑しい魔女め!扉を開けろ!!!」
その時。
「ーー げて、逃げて!!」
耳馴染みのある声が聞こえた。鈴を転がすような可憐な声。それが、悲しげに引き攣っている。
私は扉をー 扉の向こうにいる光を見つめる。
「こいつ…!大人しくしてろ!!」
「お願い逃げて!!………ちがう、ちがうのよ。私、こんなつもりなんか、なくて」
消え入りそうな、その一言を聞き終わる前に、私は杖を振りかぶった。
耳をつんざくような、激しい爆発音が轟く。
「うっ………!」
木が焼け焦げる匂いと煙に包まれる。ややあって、視界が鮮明になったかと思えば、私を射抜かんと光線が飛んできた。
「ご挨拶ね」
魔法で光線を弾きゆっくりと一歩踏み出す。
「民の家を壊して。それでも王国の兵士?」
煙が晴れた向こうに、多くの兵士が魔法銃を構えていた。その中に、青い光を見つける。
何らかの捕縛魔法をかけられているのだろう。消えかけの蝋燭のような、弱々しい光り方だった。
腹の奥が煮えるような感覚を覚えた。両親が殺されて以来の、久々の感情だった。
兵士たちのなかで一段と重厚な鎧を着た男が立ちはだかる。
「なるほど、防御壁を張ったか。さすが採掘禁止区域に忍び込んだ魔女だ。……挙句にブルー・アクアマリンの原石まで掘り起こしおって」
「あぁ、あれそんな名前なのね。美味しかったわ、もっと欲しいくらい」
青い石を思い出しながら嘯く。王家の宝物のくせに不味かったなぁ、と心の中で独りごちた。
「魔女を迫害する貴方達が
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