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渦巻く滄海 紅き空 【下】
六十三 開眼
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天照】」




































見渡す限りの緑。

深緑の魔境を思わせる樹海では、時折獣の声がする。
鬱蒼と生い茂る草木に蔦が無秩序に絡まり、猛毒蛇等が草叢をしゅるりと這ってゆく。

万緑に染まる密林の奥。
白い霧が一面に立ち込める湖の向こうに、異様な石造りの建築物が佇んでいる。


風雨に曝され摩擦しているが、精巧な浮彫。
かつてはさぞかし荘厳であっただろう大理石の壁は、風化して崩れている。
ジャングルに埋もれるようにひっそりと聳え立っているその遺跡は、古い神殿を思わせた。

捩れて節くれ立った木の根が壁一面を覆い尽くしている。
根と根の間にある蛍光灯は、施された紋様を主張するかのように、敷石の通路を照らしていた。


ジャングルの奥地に佇む割に、堅固な造りたる内部。
文明が途絶えた遺跡のような外見に反し内装はやけに近代的で、外見だけあえて古く見せかけていたのが窺える。

明らかに外敵を意識した設備に、無数に分岐する路。網目の如く巧妙に張り巡らされた構造はさながら迷宮を思わせる。
一度足を踏み入れれば、侵入者はたちまち迷路に陥ってしまうだろう、一見寂れた古代遺跡は文字通り、今や寂れていた。

かつては空の国を復興させる為に空忍と呼ばれる忍び達によって建造された其処は、今では人の気配など無い。
いや、つい寸前まで其処には誰もいなかった。



淡い翠緑の光が注ぐ大広間。
緑玉でも敷き詰めているのかエメラルドグリーンの石畳には巨大な柱が迫り出している。
柱に纏わりつく木の根もまた大きく、それでいて複雑に絡み合っていた。

森厳な翡翠の間。
大広間を照らす緑の照明は、この場と室外を隔てる極光のようだ。


惜しむべくは広間の床。
エメラルドグリーンの石畳がまるで蜘蛛の巣のように罅割れている。
何かが上空から勢いよく床に撃墜したかのような跡。
けれどその床の傷も荘厳な広間の美しさを損なわず、むしろ最初からそのような文様だったかのように、翡翠の輝きを放っている。

右上から左下にかけて、見事な切り口を残して斜めにざっくりと切り取られている椅子でさえ、妙に広間にしっくりきていた。


三分の一がごっそり無くなっている硬質な椅子。
其処に腰掛けていた彼へ、絢爛たる大広間を見渡していたひとりが声を掛ける。

椅子の肘掛けにドカッと腰掛けると、すこぶる至近距離で、瞑目する彼の顔をデイダラは愉快げに覗き込んだ。


「おいおい、ナル坊!こんなジャングルの奥地に呼びつけて何事かと思ったら、すげー別荘持ってるじゃねぇか、うん!」
「…元は俺のモノではないがな
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