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海産物は好きでも
第三章

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「私牡蠣いいわ」
「えっ、いいんですか」
「お袋好きだろ」
「好きだったのよ」 
 郁恵は息子夫婦にこう返した。
「前までね」
「それどういうことだよ」
「前までって」
「ああ、母さんあたったんだよ」 
 ここで夫の仁が言ってきた。
「牡蠣にな」
「ってまさか」
「お義母さんこの前」
「牡蠣食べ放題でね」 
 それでというのだ。
「食べ過ぎてなんだよ」
「あたったのか」
「牡蠣って食べ過ぎるとそうなるし」
「だからか」
「お義母さん牡蠣はなのね」
「本当に牡蠣も大好きなんだよ」
 この海の幸もというのだ。
「あいつは海の幸は何でもでな」
「けれどそれでか」
「あたったから」
「ああ、あいつは牡蠣は駄目だ」
 食べられないというのだ。
「だから今日はは」
「じゃあ別の用意しておくか」
「そうね、牡蠣以外のものをね」
 息子夫婦もそれならと話してだった。
 スーパーに行って郁恵用に海老を買った、それをフライにしてだった。
 帰ってきた郁恵に夕食でそれを出した、すると郁恵は笑って言った。
「全く、牡蠣も食べ過ぎるとね」
「駄目なんだ」
「そうよ、あんたも気を付けるのよ」 
 孫に笑顔で話した。
「さもないと祖母ちゃんみたいになるよ」
「お腹壊すの?」
「そうなるからね、じゃあ祖母ちゃんは海老を食べるから」
 明るく笑って言うのだった。
「皆は牡蠣を食べてね」
「そうするね」
「好きでも食べ過ぎには注意だな」
 夫は考える顔で妻に語った。
「何でも」
「そうね、この歳になってわかったわ」
「それじゃあな」
「生きている限り気をつけるわ」
 こう言って海老フライを食べるのだった、郁恵はその海老フライを実に美味そうに食べた。その顔はまさに正真正銘の魚介類好きの顔だった。だが今は牡蠣は食べないのだった。


海産物は好きでも   完


                 2022・8・23
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