第二部 1978年
ソ連の長い手
恩師
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佐からの命令だ、ヴュンスドルフの空軍基地から戦術機部隊を回せ」
総司令部から連絡の有ったヴュンスドルフの空軍基地で慌ただしく出撃準備が始まる。
滑走路に数台の戦術機が居並び、跳躍ユニットのエンジンが吹かされる。
そのうちの一機の手に握られているのは、20メートル近くある二本の旗竿。
それぞれには、軍艦に掲げられる大きさのソ連国旗と白旗。
国家間の交戦規程を記した『ハーグ陸戦条約』32条に基づく措置であった。
強化装備姿の男達が駆け込んでくると、管制ユニットに滑り込む様にして乗り込む。
轟音と共に戦術機はベルリンへと向かった。
深夜のベルリン・パンコウ区。
自宅の寝所で妻と寝ていたユルゲン・ベルンハルト中尉は、叩き起された。
彼は、毛布を蹴飛ばすとベットより起き上がる。
黒いランニングシャツに深緑のパジャマのズボン姿で、周囲を見回す。
気が付けば、真横に野戦服姿のヤウク少尉がタバコを口に咥えた姿で佇んでいる。
多分、渡しておいた合鍵で入って来たのであろう。
怒気を含んだ顔つきでヤウクの顔を見ると、こう告げた。
「随分と荒々しい起こし方だな。それに我が家では寝室は禁煙だぞ……」
茶色いフィルターのタバコを咥えたヤウクは、右の親指で外を指す。
「僕に起こされたことを感謝するが良いさ。シュタージの送迎で来た……」
何時もはユルゲンに気を使ってタバコを吸わない彼が紫煙を燻らせている。
ただ事でないのは、理解できた。
「可愛い奥様のパジャマ姿は、奴等に見せたくはあるまい」
ヤウクは、ベットの端に座るベアトリクスの方を見る。
彼女は濃紺の寝間着一枚。状況を把握できず、右手で寝ぼけ眼を擦っている。
開けた上着から見える豊満な胸は、何とも艶かしく見る者を魅了した。
「ヤウクさん……何時だと思ってるの。深夜2時よ」
ベアトリクスの一言に、ヤウクは気を取り戻すと余所行きの笑みを浮かべる。
「申し訳ないけど、御主人……連れて行きます……」
怫然とする彼女は、乱れた髪を手櫛で梳きながらヤウクを睨む。
ヤウクは表情を改めると、左わきに抱えたビニール袋をユルゲンに投げ渡す。
「君のサイズの行軍セットだ……急いで支度して呉れ」
行軍パックセットと言われる上下長袖の下着と靴下やハンカチの入った一揃いの袋を受け取る。
袋をまじまじと見たユルゲンは、思わず不満を漏らした。
「うわ、官品かよ……、これ嫌なんだよな」
その一言に苛立ちを感じたのか、ヤウクは紫煙を勢い良く吐き出す。
普段、行儀のよい彼にしては珍しく舌打ちをした後、反論した。
「こんな時間に酒保が開いてるわけないだろ……無理して用意したんだ。
我儘はいい加減にしろよ」
彼は、
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