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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第77話 手紙
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「どうです。ペニンシュラ先生? 先生は代議員の最高峰である最高評議会議長になられたら、何をなされたいですか?」
「……き、君は」
「先生は国防委員会に所属されておいでなのですから、この国の国防態勢に大変ご関心がおありと存じます。軍人として、たいへん心強く思う次第です。いずれ国防委員長になられた際には、その識見を存分に生かしていただければと存じますが……まずは『今の』先生のお気持ちを伺いたいですね」

 そんなものはない、とは言えまい。軍事企業からリベートを受け取るしか能がない男とマスコミに評されていた男だが、転生者の魂でも憑依しない限り、ああも見事に覚醒することは出来ないはずだ。俺という実例がある以上そういう可能性を否定はできないが、少なくともある程度の軍事的識見と知識がなければ、スピーカーとしての仕事すら果たせない。幾らスピーカーとはいえ雑音しか出さないようでは、ネグロポンティの後釜にはなれないのだ。

「……気づかれていたのならば仕方ないが」
「え、いや、そこからですか?」
「あぁ、まぁ、そうか。士官学校の首席卒業者ならば、直ぐに私のことくらいは調べるか……」
 ハハハと乾いた笑いを浮かべるアイランズだったが、珈琲を一口啜ると、力なく肩を落とした。
「で、どうするね?」
「どうする、とは?」
「私の行動を告発するかね? シトレ中将あたりが喜びそうな話だと思うが」
「なんで先生を告発する必要があるんです? こんなに美味しいTボーンステーキを頂いたのに」
 
 肩を竦める俺を、目を見開いてアイランズは見つめてくる。別に男に見つめられるのはうれしくもなんともないが、灰色の瞳にある大きな安堵以外の、小さな野心の火があることに俺は僅かに感じ入った。袖口のボタンを弄る彼に、俺は小さく頷くことで話を促す。

「君が評価するほどに、私は軍に対して強く識見があるわけではない。軍にも筋がある、親が経営する鉱山会社のお荷物次男坊に過ぎん。会社を継ぐほどに経営的才能がないから政治家になったようなものだ」
 改めて淹れなおされた珈琲をかき混ぜながら、アイランズは懺悔のように話し続けた。
「自分が三流の政治業者であることは、自分が一番よく知っている。国家の大戦略を自分で構築するほどの才能などありはしない。だが大戦略を構築できる人は知っているし、その人の役には立ちたいと考えてはいるが」

 その人こそトリューニヒトであろう。彼に従い、彼の支持者になることが、彼の半生の全てだった。美辞麗句の扇動政治家の手下の、二流利権屋に過ぎない彼だが、覚醒前もその後も、恩と義理について筋を通している。最初から精神が捻じ曲がっている男ではない。

「その人とはトリューニヒト閣下のことですか?」
「……その通りだ。トリューニヒト閣下は帝国を打倒する為の
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