第二章
[8]前話
次の日今度は住んでいるマンションを出たところで美咲に会って言われた。
「昨日は秋刀魚焼いたわね」
「やっぱり匂いで」
「わかるわよ、ドアから匂ってたのよ」
「カレーの時と一緒で」
「わかったわ、美味しかったかしら」
「はい、主人も秋刀魚好きで」
瑠美は美咲に答えた。
「楽しめました、ただドアから匂うんですね」
「そうよ、だからお部屋の前を通ったらね」
「わかるんですね」
「私はね」
美咲は笑顔で話した、だが。
瑠美は彼女の話にそれは本当かと思った、だが。
マンションの中を歩いているとだ、確かにだった。
それぞれの家がその日何を作っているのかわかった、ドアから匂ってくるのだ。
それでだ、瑠美は美咲に話した。
「本当に匂いますね」
「そうでしょ、このマンションキッチンがドアの傍にあってね」
美咲は瑠美に話した、二人でマンションの前で立って話をしている。
「通気もドアの方に行くから」
「それで匂うんですね」
「そうよ、まあ何を食べてもね」
美咲は笑顔で話した。
「いいしね」
「そうですね、日本は」
「そうした宗教的な戒律ない人が殆どだから」
「どんなものを食べてもいいし」
「それぞれ素敵な匂いを出せばいいわ」
「そうですね」
「今日私マトン焼くけれど」
美咲は笑顔で話した。
「これは苦手な人いるわね」
「癖ありますからね」
「けれど慣れたらね」
マトンの匂いはとだ、美咲は話した。
「美味しい匂いなのよね」
「マトンが美味しいのを知ったら」
「そうなるのよね」
美咲は笑顔で言った、そして実際にその日瑠美が彼女の部屋の前を通るとマトンの匂いがした、それで仕事から帰った夫に笑顔で言った。
「今度マトン焼く?」
「ジンギスカンするのかな」
「どうかしら、お隣さんのお部屋から匂ってきて思ったけれど」
「いいね、じゃあそれにしよう」
夫も笑顔で応えた、そうしてこの日も夕食を食べたのだった。翌日美咲に鯖の煮付けだったと言われたのは楽しい後日談だった。
匂いでわかる 完
2022・8・20
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