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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第76話 演習 その2
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帯端末でブライトウェル嬢を呼び出した。公室の扉に現れたブライトウェル嬢が三四秒後にブルーベリージャムの瓶とスプーン、それにナッツを入れる小鉢を四枚持ってきたのを見て、三将官達は微笑と苦笑と困り顔の三重奏を見せる。

「戦略的な目的はエル=ファシル星域再入植に対する保全です」
 グレゴリー叔父は早速ブルーベリージャムを小鉢に移し、そこから掬って口に運んでいる。
「エル=ファシルに一個艦隊規模の大戦力を置くことも検討されましたが、バーラトに人口三〇〇万のエル=ファシル『村』を作った手前、インフラのリソースが不足しております」
「ダゴン星域の支配権が確立しようとする動きをすれば、帝国軍がエル=ファシルに視線を向けることは少なくなる、という事か」
 爺様は腕を組み、不満顔。リーブロンド元帥のイゼルローン要塞攻略が上手くいかなかったというのも、補給路の確立に足を引っ張られてのことだ。失われた資源は、三〇〇万人の生活再建に比べるまでもない。
 だが先日シトレに会った時にこの話がなかったというのも少し妙だ。話のレベルからシトレならシンパの息子の俺を通じて爺様に伝えようとすることくらいは、問題ないはずだ。?み合わない話の歯車に、俺はブルーベリージャムを舌に乗せ……砂糖とビタミンCによって繋げられた糸に歯噛みした。
「小官のせいですか、もしかして?」
「……そう話を飛ばし過ぎるな、ヴィクトール。正確にはビュコック閣下とヴィクトールを甘く見た私の責任だ」
 グレゴリー叔父はそう言いつつ、家では子供の教育によくないと言ってめったに見せない、スプーンを口に咥えたまま天井を見上げた姿で応えた。

 戦略的大敗。しかしエル=ファシルの奪回には成功した。これを防衛する部隊の編成は済んでいる。帝国軍が再度エル=ファシルを攻略しようと大軍を動かす状況は確かに考えにくい。だがダゴン星域、特にカプチェランカに帝国軍が根を張られては厄介なことになる。取ったり取られたりを繰り返している惑星で、防衛維持が天体地理的に難しい場所ではある。仮に同盟軍が機動戦力を使って奪取を試みても、第四次イゼルローン攻略戦で被害をまずそれなりに受けているであろう駐留艦隊は出てはこない。つまり大規模な艦隊戦闘はあまり想定されない。

 そこを踏まえたうえで、シトレは自分の第八艦隊とシンパの第四四・第四七両高速機動集団を出動させようと考えていた。第四四は実戦経験がある上、ビュコック少将の実績を考えればもう中将になってもおかしくないので、大規模艦隊戦闘が行われない遠征に参加したことで中将へ昇進させることができる。

 第四七は完全新編制の部隊で、指揮官は四二歳の少壮の少将。既に少将に昇進して六年。前線でも後方でも実績を上げているが、高速機動集団レベルの戦力を直率しての武勲はない。誰の目にも中将と
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