第三十章 わたしたちの世界、わたしたちの現在
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ほとんど、なにも考えられない状態になっていた。
残った僅かな思考も、ぐるぐる無意味に揺れ回るばかり。
語られている最中に、じわじわと湧き上がる想像こそあったが、だからといって微塵もショックのやわらぐものではなかった。
なにが、なんなのか。
まったくわけが分からないよ。
いや、いっていることは、分かるよ。
でも、信じられない。
いま彼女が語っていた仮想世界、それがわたしたちのいた世界だったなんて。
信じられるはずが、ないじゃないか。
でも……
でも、
「もしもそれが本当のことだというのなら、今というのは……現在、というのは……」
ふーっ、と息を吐き感情を乱さないようにしながら、でも震える身体に心が乱れていること丸分かりな状態で、アサキは小さく口を開き、尋ねた。
いい終えるより前に、返答された。
「あなたたちがこれまで『自分たちが生きている現在と認識していた時代』から、1800億年後です」
聞くだけで身も心も粉々に砕けそうな言葉を、こともなげに、ブロンド髪の少女は吐くのだ。
わたしたちの、認識していた現在。
宇宙が誕生し、確か、92億年後に地球が作られて、さらに46億年後の世界。
その、はずだったのに……
「じゃあ……じゃあ、本当の、地球は……」
「星の寿命って、どれくらいか知ってますか?」
ヴァイスは、ほとんど感情も表情もない、大人びた、落ち着いた顔を、アサキへと向けた。
その問い自体が、答えなのだろう。
つまり、地球はもうこの宇宙に存在していない。
仮に、存在しているとしても、それは自分たちの知る地球ではない。
少女のいっていることを、事実であるとするならば。
だって、わたしたちの知る、わたしたちが守ろうとした地球は、コンピュータが作り出した単なる仮想世界だったのだから。
「なんなんだよ、それ! 無茶苦茶なことばかりいいやがって!」
カズミが、両手で髪の毛をばりばり掻きむしりながら、声を荒らげた。
「ここはどこか、という先ほどあなたが発した問いに答えたものです。あなたたちの世界での語彙を借りるなら、ここは『絶対世界』であるということです」
その言葉。「絶対世界」という言葉に、アサキの身は凍り付いていた。
だって、見も知らないその世界のために、これまでどれほどのことがあったというのか。
ヴァイスタという怪物と戦い続け、
わたしの仲間であり親友の、正香ちゃんや、成葉ちゃんが死んだ。
ウメちゃんも、妹の雲音ちゃんを助けるために、その「絶対世界」を目指し、死んだ。
至垂リヒト所長が「絶対世界」へ
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