第122話『晴風』
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想像以上の収穫を得られたので、晴登としては今日の会話は非常に有意義だった。
とここで、晴登はずっと気になっていた疑問をぶつける。
「父さん、最後に訊きたいんだけど、どうして影丸さんの元からいなくなったの?」
「ん? あぁ、そのことか」
そう、影丸が話してくれた過去の話の中で、父さんは影丸を置いてどこかへ行ってしまったのだ。その理由は影丸にもわからず、彼はずっとその答えを探していた。
そしてようやく手に入れた晴登という手がかり。父さんとの連絡も可能になり、今朝の電話とやらできっと答えは聞いたのだろう。しかし晴登自身も、その話の真相が気になって仕方がなかった。
父さんはどのように伝えるか少し迷ってから、口を開いた。
「一言で言うと──母さんに惚れたからだ」
「……はい?」
一体どんな深刻な理由があったのかと身構えていた晴登は、その予想外の答えに拍子抜けする。
「俺が昔、魔術連盟に所属していたことは知ってるな? その仕事の途中で見かけた母さんに俺は一目惚れした。すぐにナンパして仲良くなったよ」
「うわ」
『ナンパ』というワードを聞いて、若い頃の父さんが晴登と違って全く人見知りではないことが窺い知れる。
というかそんなことより、どうして今父さんと母さんの馴れ初め話になっているのか。
「だが母さんは魔術に精通していなかった。だから俺は生業とする魔術を捨てることにした」
「極端すぎない!?」
あっさりとしたその結論にたまらずツッコむ。"風神"とまで呼ばれていたのに、その箔を簡単に捨てるなんて、短絡的にも程がある。
「変な話じゃないだろ。魔術というのは一般人が無用心に近づいていい代物じゃない。母さんを危険なことに巻き込みたくなかったから、俺はその日付けで魔術連盟を脱退した」
「じゃあ影丸さんの元に現れなくなったのは……」
「それが理由だ。魔術連盟を抜けた俺が面倒を見ることはできない。あいつのことは息子のように可愛がったが、新しい息子ができると考えると……ふふ」
「あっ……」
父さんが気味の悪い笑みを浮かべ始めたので、晴登はこれ以上の言及はよそうと思った。とりあえず、心の中で影丸に謝っておく。うちの父さんが自分勝手でごめんなさい。
「と、とにかく、お前のおかげでまた影丸と話ができた。ありがとな、晴登」
「ううん、いいよ。俺も父さんと魔術の話ができて楽しかった」
「そうか。なら良かった」
父さんはそう静かに笑うと、自分の部屋へと戻ろうとする。しかし、その途中で再びこちらを向くと、口に指を当てて言った。
「あ、でも母さんには内緒だぞ?」
「結局隠し通してるんだ……」
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