骸骨と姫
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。出て行って!」
けれど、やはり骸骨の気配は動く様子がありません。お姫様の声すら、もしかしたら聞こえていないのかもしれません。
お姫様はその愛らしいおめめがとけておしまいになるかと思われるほど、ずっと泣き咽せておりました。
いつのまにか泣き疲れて眠ってしまったようで、瞳を射す日の光でお姫様は目覚めました。部屋の隅には、陰鬱な影を纏った骸骨が立っておりました。
お姫様は立ち上がると骸骨の傍に歩いて行きました。朝の凍えた石床は刺すようにお姫様のやわらかな熱を奪いますが、お姫様はぐっとそれに抗うように、力をこめて一歩一歩、骸骨へと近づきます。
「ねぇ」
お姫様は骸骨の目の前に立ちました。
「…笑って」
骸骨の顔の骨は動きません。
「笑って」
もう一度繰り返しても、お姫様の白く凍える息が部屋にとけるだけです。
お姫様は手を伸ばして骸骨の手を取りました。
「冷たい」
一晩中そこに立っていただろう骸骨は凍え切っておりました。
お姫様はそれに失望しました。冷たい手しか持たない骸骨にも、その手が温かければ良いとそう願っていた自分にも、心の底から失望しました。
お姫様は興味を失ったかのように骸骨の手を離すとぷいと顔を背けました。
その先には窓がありました。青く遠い空。
太陽の光が優しく降り注ぎます。
雲はのんびり世界中を泳ぎ、鳥は自由に羽ばたきます。
お姫様だけが、暗く冷たい塔の中、茨の鎖に体ごと縛られているのです。
「外に、いきたい」
ぽつりとお姫様はこぼしました。
きっと外の世界は見たこともないもので溢れ、きらきらと輝きお姫様を甘やかして包んでくれるはずです。
しかしすぐにそんな考えを打ち消すようお姫様は首を振りました。そんな夢物語、どうやったって叶うはずがないとわかっていたからでした。
塔を取り巻く塀は高く、茨で覆われていますし、この真面目な骸骨は決してお姫様をここから出してくれることはないでしょう。
「着替えるから、出て行って」
骸骨は、力なく吐き出されたその言葉に促されるように踵を返すと、きっと朝食の準備をするためでしょう、階下に降りてゆきました。
骸骨の黒い正装が見えなくなると、お姫様は血のようにあかい唇を噛みしめました。
その時でした。どおんとなにか大きい音がしたかと思うと、一瞬塔が揺れたのです。
十余年も生きてきて、この塔でそんなことが起きたのは初めてでした。
お姫様は恐ろしくなって、ベットの柱にしがみつきました。
階段を駆け上がる足音がします。骸骨のものではありません。きちんと教育されている骸骨は走ることは絶対にありません。
お姫様は真っ青になってぶるぶると震えました。
バタン!と大きな音がして、お部屋のドアが内側に開きました。お姫
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