第二章
[8]前話
相手の父親であるその旧家の右に分けたやや後退した黒髪と異様なまでに鋭い眼光を放つ目、痩せ気味の顔にちょび髭と一七五位の背と日本仁である筈だがあの総統に生き写しの彼が哲夫に言うのだった。
「私は酒も煙草も口にしないし菜食主義者だ」
「それ外見のままじゃないですか」
哲夫もその総統がそうした人とは知っていた、思わず身体を引かせて応えた。
「もう」
「よく言われる、君が酒を飲んでも肉や魚を食べてもいいが」
それでもというのだ。
「煙草だけは駄目だ」
「えっ、それはですか」
「厳禁だ、娘と結婚するならそれが条件だ」
「一日一箱もですか」
哲夫にしてはかなりの譲歩だった、一日三箱だからだ。
「駄目ですか」
「一本もだ、さもないとだ」
「娘さんとはですか」
「結婚を許さん」
「そ、そうですか・・・・・・」
哲夫はその返事に絶望を感じた、だが。
「あんた煙草辞めたの!?」
「あの娘の親父さんが煙草吸ったら結婚は許さないって言うんだよ」
哲夫は花火に会社でこの世の終わりの様な顔で答えた。
「だからな」
「それでなの」
「ああ、俺はな」
「もう吸わないの」
「そうだよ、だからな」
禁煙パイポを出して言った。
「これでな」
「吸わない様にしてるの」
「それでガムや飴もな」
こうしたものもというのだ。
「用意してるよ」
「お口が寂しいとなのね」
「そういうの噛んだり舐めたりしてな」
その様にしてというのだ。
「何日か前からやってるよ」
「そうなのね」
「煙草を取るか完璧美人と結婚するか」
「あんたは後者を取ったのね」
「すげえんだぞ、大和撫子でスタイル着物の上からでもわかるんだぞ」
「そうした人だから」
「だからな」
絶対にというのだ。
「そう思ってだよ」
「結婚を取ったのね」
「ああ、あの娘と結婚するなら煙草は止めだ」
禁煙パイポを吸いながら言った。
「そうする、辛いがな」
「まあ頑張ってね」
「総統には勝てても完璧美人との結婚には勝てないんだよ」
こう言ってだった。
哲夫は煙草をすっぱりと止めた、そしてだった。
その美人との結婚を果たして彼女と幸せな家庭生活に入った、その時には彼は煙草を止めてよかったと言った。そうして二度と吸わなかった。
ヘビースモーカーの苦悩 完
2022・7・27
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