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剣の丘に花は咲く 
第五章 トリスタニアの休日
第五話 赦し
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来たのです」
「俺の力を」
「明日まであなたのお力をお借りできませんか? わたくしの護衛をお願いしたいのですが」
「何故俺なのか、理由を聞いても構わないか。護衛が必要というのなら、いくらでも用意できるはずだろう?」
「……信用出来るものが少な過ぎるのです」

 唇を噛み締めるアンリエッタを、士郎は腕を組んで見つめている。

 ……若くして王となれば、賞賛や羨望だけでなく、嫉妬や妬みも向けられるだろう。
 それに……この間の誘拐騒ぎ……。
 ……信じられるものが少ないか……王だからとはいえ、こんな少女が……。

「わかった。俺で助けになるのなら」
「本当ですか!」

 バッと顔を上げたアンリエッタの顔には、迷子の子供が、やっと親を見つけたような安堵の表情が浮かんでいた。そんなアンリエッタに、士郎は安心させるように笑い掛ける。

「ああ、だからそんな不安な顔をするな」
「そ、そんな顔してましたか?」

 ぺたぺたと自分の顔を確かめるように叩くアンリエッタに、士郎は手を伸ばす。

「……ぁ」
「ああ、不安そうな顔をしていた。今にも泣き出しそうなほどにな」

 強く大きく、しかし優しくアンリエッタの頭を撫で始めた。
 士郎の手の動きに合わせ、首が微かに動くが、アンリエッタは頭を撫でられるままにしている。
 頭を撫でられるなんて、過去数える程しかされたことがなかった。
 それも男の人からこんな風になんて……。
 
「……そんな顔してましたか」
「してたぞ。まるで小さな子犬みたいだったぞ」
「子犬ですか……」

 士郎と視線を合わせることなく、アンリエッタは士郎との会話を続ける。
 誰もいない屋根裏部屋の中、サラサラと士郎がアンリエッタの頭を撫でる音が響く。 
 
「一国の女王を、子犬扱いですか。とんでもない人ですねシロウさんは」
「あ〜……すまない」
「……でもいいです」
「いいのか?」
「はい、いいんです」
「そう、か」

 話しを終えるのを教えるように、軽くぽんぽんとアンリエッタの頭を叩くと、士郎はアンリエッタの頭から手を離した。

「それで、何時から俺は護衛につけばいいんだ?」
「……」
「姫さま」
「……」
「姫さま?」
「……あっ、は、はい! な、何ですか?!」

 自分で自分の頭を撫でていたアンリエッタが、士郎の呼び声にやっと顔を上げると、真っ赤に染まった顔で慌てて立ち上がった。
 わたわたと手を振る姿に、思わず顔が緩む。
 真っ赤な顔で睨みつけてくるアンリエッタに、士郎が視線だけで謝る。

「今からです。それとこの格好のままでは目立ちますので、着替えたいのですが何かありますか?」

 染み一つなく白い、まるでそれ自体が輝いているような清楚
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