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剣の丘に花は咲く 
第五章 トリスタニアの休日
第五話 赦し
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戸惑った顔を見せた。そんな士郎に、アンリエッタが詰め寄っていく。

「アンです。シロウさん……アンと、呼んでください」
「あ、ああ」

 異様な迫力を見せるアンリエッタに、士郎はこくこくと頷く。

「シロウさんは、ずるいですね」
「ず、ずるい?」

 自分の顔を指差す士郎に、アンリエッタは真面目な顔をして頷く。

「ええ、ずるい人です」
「そうか、ずるいか」

 どこか落ち込んだ様子で肩を落とす士郎に、アンリエッタが穏やかな笑みを向けている。背を曲げる士郎に、手を伸ばそうとしたアンリエッタだったが、不意に聞こえてきた音に手が止めた。

「……あ」
「どうかしたか?」
「……雨が」
「ん? 降ってきたようだな」

 窓の向こうからは、突然の雨に文句を言う人の声が聞こえてくる。雨足は次第に強くなり始めている。雨漏りを心配しながら、士郎が天井を見上げていると、士郎の肩にアンリエッタが頭を当てたきた。

「……不思議です」
「何がだ?」
「雨が降っているのに……怖くないなんて」

 目を瞑り、寄りかかってくるアンリエッタを見下ろしながら、士郎は胸に渦巻く思いを飲み込むように頷いた。そして、アンリエッタがずり落ちないように肩を抱き寄せた。

「……そうか」
「あっ……」

 士郎の手が肩に触れると、弾かれるように小さく声を上げたアンリエッタに、思わず士郎の手が離れそうになったが、アンリエッタが士郎の手を上から抑えたことから、士郎の手はアンリエッタの肩から離れることはなかった。
 それどころか、

「もっと……強くしてください……」
「ああ」

 もっとと望むアンリエッタに応えるように、士郎は自身の胸に押し付けるかのようにアンリエッタを引き寄せる。
 士郎に肩を寄せられ、士郎の胸元に頭を付けたアンリエッタは、安心したような笑みを浮かべていたが、不意に顔を悲しげに歪ませた。

「……わたくしが……死なせてしまった…………わたくしは、赦されることがあるのでしょうか」
「……それは……すまない……」

 アンリエッタが何を言いたいのかわからないほど、鈍い鈍いと言われる士郎でも理解していた。
 赦される……か。
 アンリエッタの独白を聞きながら、士郎は思い出していた。
 人を救うといいながら、人を殺し、見捨てたことを。
 助けを、救いを求める人に手を差し伸ばすが、全てを救えることは出来なかった。
 子供だけでもと子を差し出す母親。
 気にするなと一人敵を足止めするため残る男。
 そういった者たちを見捨てた。
 敵だからと殺した。
 俺が殺した相手にも、大切に思っている者たちがいただろう。
 赦されるわけがないと理解していた……納得もしていた。
 だからといって平気な筈
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