生きていていい
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「だからさ。精一杯、頑張って生きようよ。そうすれば、きっと……いいことだって、あると思うよ」
「……結局、決めるのは自分自身だということか」
「うん。それに、それを選ぶことさえ出来なかった子を、わたしは知ってる」
友奈は続ける。
「でもその子が生きた証は、今でも残ってる」
「……どこに?」
アンチの聞き返しに、友奈は「ほら」と町の方へ促した。
見滝原の山から一望できる、見滝原の街並み。色とりどりの町々が、夕焼けの光を反射して輝いていた。
「この街全てだよ。あの子は、誰からも受け入れられなかったけど、それでもたった一人の大切な人が好きだった町を守ったんだ。たとえ生まれがどんなところでも……君の正体がなんだって関係ないよ」
「……俺は……!」
「だから、上手く言えないけど……あの怪獣が君の正体だったとしても、それを呪って考えることを辞めちゃだめだよ。君にだってきっと、君が動きたいようにできるはずだよ」
「俺は……っ!」
友奈に知る由などない。
ほんの数日前、彼がとある聖杯に呼び出された戦士に言われた一言が、彼の胸中に去来していることに。
アンチが顔を落としている時。
その気配に、友奈は背筋を震わせた。
「危ないっ!」
ノータイムで、友奈はアンチを押し倒した。すると、友奈とアンチの首があったところを切り裂いた。左右の木々が切断され、音を立てて倒れていく。
「何……これ?」
友奈は顔を真っ青にして、一瞬にして切り株になった木々を見返す。
そして、発生した場所。
山の斜面、その少し先の部分。夕日が差し込むその箇所に、一か所だけ、自然にはあり得ない光景が広がっていた。
それは___
「ムーンキャンサー!? 何でここに!?」
「ムーンキャンサー?」
それはつい先ほど、アカネとアンチが問答していた中心の存在。
ムーンキャンサーなるものはまだここからは遠く、友奈には視認できない。
だが。
「何か……いる……!」
自然の結晶である、見滝原山。
その、さらに自然の神秘を詰め込んだ、うっそうとした洞窟。発光体などなさそうなその空間に、不自然に光る何かが見えた。
「あれは何?」
だが、その問いの答えは、アンチの移動。
これまた人智を越えた動きで、一気に山を駆け下りていく。
「アンチ君! 待って!」
友奈も、すでにボロボロの体に鞭を打ってアンチを追いかけていく。
決して陽の光が射さないその場所は、入った瞬間の湿気と寒気で、友奈は呼吸の感覚が変わった。
そして。
「あれが……ムーンキャンサー?」
洞窟の壁にへばりつく、美しく青く輝くその生命体。
心臓のように胎動する、青い球体。
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