第一章
[2]次話
ずっと家に帰りたいと
鈴木萌、一六〇程の背で黒目がちの小さな蒲鉾型の目と黒い細い眉に白い顎の先が奇麗な顔と小さなピンクの唇に肩までのやや茶色にした髪の毛を持っていてかなりの胸と腰を夫の幸久のものだけにしている彼女は細菌毎日パートの仕事が終わるとだ。
老人ホームにいる義母の薫を訪問していた、薫は萌を見るといつも言っていた。
「毎日有り難うね」
「いえ、気にされないで下さい」
笑顔でだ、萌は優しい顔立ちで白髪頭を短くしている義母に応えた。
「お義母さんにはよくしてもらったので」
「そうかしら」
「はい、結婚する前から」
夫と、というのだ。
「ですから」
「毎日来てくれるのね」
「何かあったら仰って下さい」
義母にこうも言った。
「出来ることなら何でもです」
「してくれるのね」
「ですから」
「あの子もよく来てそう言ってくれるわね」
萌から見て夫にあたる幸久もというのだ、小柄で黒髪は短く童顔である。仕事はサラリーマンである。
「有り難いわ、私はいい息子と娘を持ったわね」
「私は娘ですか」
「そうよ、いい子達に囲まれて幸せよ」
萌に笑顔で言うのだった。
「本当に」
「そう言ってくれて何よりです」
「そうなのね」
「私も」
「ええ、じゃあ何かあったらね」
「お願いします」
身体を悪くして多忙な二人に迷惑をかける訳にはいかないと自分から言って老人ホームに入った義母に言った、そしてだった。
夫婦で何かあると彼女のところに行き実際に世話をした。
義母はそんな二人にいつも感謝の言葉を述べてだった。
にこにことしていた、そして。
夫に先立たれたことについても言わずこんなことを言うのだった。
「もう充分生きたししたいことは全部したから」
「だからですか」
「もうね」
今はとだ、この日も自分に会いに来てくれた萌に話した。
「何もね」
「思い残すことはないですか」
「ええ、天寿を全うして」
そうしてというのだ。
「お父さんのところに行くだけよ」
「いえ、長生きしてもらわないと」
「もう充分長生きしたから」
だからだというのだ。
「もうね」
「いいですか」
「そうよ、後はそれだけよ」
こう言うのだった、そして。
萌が幸久との間にまず息子をそれから娘をもうけて自分のところに連れて来るといよいよこう言った。
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