第2部
スー
名もなき村
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いえば、もうすでに半年以上もユウリと旅をしているのに、未だに嫌味を言われる始末。けれど弟相手に焼きもちを焼くのも子供じみていると思った私は、溜め息をつきながらも荷物を背負い込むと、しぶしぶ彼の後についていったのだった。
「あなたが、弟の手紙、書いてあった者か? 待っていた」
船からさほど離れていない平原にある、一軒の小さな家。いや、家と呼ぶには首をかしげるような佇まいだ。外壁は木や何かの動物の皮、あるいは貝殻などがあちこちに埋めこまれており、まるでそのへんにあったものを寄せ集めて無理やり家の形にしたような感じだ。
その家を尋ねたとたん現れたスー族の男性は、開口一番そう聞いてきた。
よく見ると、その男性は、顔の作りがアナックさんにとても似ている。そしてやっぱり体つきもしっかりしている。
「名乗りもしない訪問者をいきなり本人だと信じるんだな」
皮肉を込めた口調で言い放つユウリ。けれど言われた本人は気にも留めていない様子で、
「こんな辺鄙なところ、人なんて来ない。アナックの手紙なければ、追い返していた」
そう平然と答えた。
「私の名、グレッグ。アナックの兄だ」
「俺はユウリ。魔王を倒す旅をしている勇者だ。それにしても、あんたの弟は随分人使いが荒いんだな」
「弟の文句、わしに言われても困る。それより、スー族の宝を持ってきた、本当か?」
「ああ、これがそうだ」
鞄から取り出した渇きの壺をグレッグさんの目の前に差し出すと、彼は僅かに目を見開いた。
「……間違いない、本物。しかし、その壺のせいでスー族の村、滅びた。今度は奪われないよう、大切に保管する」
そう、渇きの壺はグレッグさんたちスー族の宝であると同時に、かつて村を滅ぼされたきっかけでもあったのだ。グレッグさんにとっては複雑な心境なのかもしれない。
「スー族の一人として、礼言う。ありがとう」
それでもグレッグさんは私たちにお礼を言うと、心底安堵したように壺を受け取った。
「目的は果たした。それじゃあ俺たちはこの辺で失礼する」
「待ってくれ。頼みがある」
そう言って早々に踵を返すユウリを、グレッグさんが引き留める。
「兄弟揃って似たようなことを……。悪いが俺たちには時間がないんだ」
うんざりした様子で振り返るユウリ。けれどスー族ゆえの性格なのか、はたまた世代の差なのか、グレッグさんにはユウリの不満は届かない。
「わしがここ、留まる理由、知っているか?」
「あんたの弟に聞いた。村を作るんだってな」
案の定、急に興奮気味に目の色を変えて話すグレッグさんに対し、さして興味もなさそうにユウリは答える。
「村ではない。わしはここ、新たな町、作る。そしてゆくゆくは、かつて大国として栄えた、我が一族の都、再現する!」
「大国か。随分と立派な夢だな
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