ラーメン
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田中の世界という彼自身の脳内はベンサムやミルの唱えた功利主義的観念に支配されていた。価値の高いものこそ至高であり、価値の低いものを利用し、それで満足している人間は心が貧しい。生まれ落ちた家系の教育が彼をそうさせたのか、或いは彼の性格故か。それは本人でさえも分からなかった。
田中家は世界でも有数の財閥であった。身の回りにあるものや口に入れるものは全て高級なものであり、庶民的という言葉からは遠くかけ離れていた。
そんな裕福な家柄に生まれた田中は現在、仙台に本社を置いている大手企業の代表取締役社長を務めている。彼が現在の役職に就いて以降、その実績は鰻登りであり、田中の仕事ぶりには非の打ち所がない。仕事には一切の失敗が無く、客観的に見れば完璧が仕事をしているようにも思えた。
「ラーメンはいかがですかぁ」
愛宕橋駅を出た彼が一番初めに目にした光景は中学時代の親友である斉藤が屋台でラーメンを食べている光景であった。その屋台のメニューであるラーメンは五百円玉一枚で食べることのできるものであり、田中はそれを一瞥するなり、眉間に皺を寄せた。そんな彼に気づいた斉藤が声をかけた。
「やぁ、田中君」
「何だい。そんな見窄らしい店でラーメンなんか食べて。惨めだとは思わないのかい?」
「君にとっては見窄らしいかもしれないね。五百円払えば食べられるような店だ。でもね、僕はここが一番美味しいと思うんだ」
田中はそんな斉藤の言葉をくだらない、と一蹴した。味の良し悪しなど金額という数字が物語っているではないか。市場価格は民衆の需要と生産者の供給の釣り合いによって決まる。立場など関係なく大多数の人間が価値を決めているようなものである。いち中小企業の中間管理職として働いている斉藤を見る度、田中は独りよがりな常識に固執していた。
ある晩、田中は仙台市で最も高級なレストランで食事をしていた。そのレストランで提供される品々はどれも一般市民が迂闊に手を出せるほど手軽な値段ではなく、貴族と呼べるほどの富者以外を跳ね除けるようなオーラさえ放っている。
田中には数年前から交際している恋人がいる。そして今夜、指輪を渡して結婚のプロポーズをしようと彼は考えていた。しかし食事をしてみたはいいものの、田中は何故か満足しなかった。否、できなかった。数字に裏切られた気分がした田中は腹いせにレストランの店員を呼び出す。
「おい、これより美味な料理は作れないのか」
「申し訳ありません、そちらが私達の提供できる最高級の料理でして……」
「ふざけるな!こんなもので客が満足すると思ってるのか!」
次の瞬間、田中と共に食事をしていた女性は彼の頬に平手打ちを浴びせた。あまりにも突然すぎる出来事に田中は愕然とし、視線を女性の方に移した。
「最悪」
忿
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