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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第71話 アスベルン星系遭遇戦 その2
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 宇宙歴七八九年 六月二〇日一九〇〇時 アスターテ星域アスベルン星系 戦艦エル・トレメンド

 星系外縁部に跳躍してからは交互に休養をとりつつも、部隊の最大巡航速度(ちなみに一番トロイのは巨大輸送艦)で外縁部から敵艦隊の居る恒星アスベルンのハビタブルゾーンへ向けて驀進していた。艦隊の動きを擬人化するならば、他所のシマに入り込んだチンピラが、シマを守る三下に眼を付けられたので駆け出してぶん殴りに行くような感じだ。

 そしてそんなエル=ファシル攻略部隊(チンピラ)の動きに、アスターテ防衛艦隊(三下)は増援部隊(背後霊)との連携をとる為、会敵時間を後ろに引き延ばすそうと航路を一〇時から一一時の方角へ変更した。それに対しモンシャルマン参謀長は艦隊全艦にコンマ〇五だけ『主舵』に固定するよう爺様に提案した。左耳に入った言葉に、俺はすぐ航路計算をしてみたが、その実に老獪な航路策定に思わず司令艦橋の天井を見上げた。

 パルサーとか中性子星とかは別として、大きさ強さに万差があるとはいえ、どんな恒星でも常に太陽風は吹き上げている。参謀長の提案した操舵はその太陽風を船体左舷方向から受ける形になり、最初は航行速度に対して負荷がかかるが、時間が経つにつれ恒星と船体の角度は大きくなり、有効射程接触予想時間には完全に『追い風』になる。

 敵艦隊がこのままの進路と速度を維持するのであれば、七時間後には敵艦隊の左舷後方『八時半』に喰いつくことができる。そして我々の後背にいるであろう増援部隊(背後霊)の現在の想定航路は、その時点での敵艦隊の位置とほぼ合致する。つまり敵は我々の目前で無理やり合流させられるというシチュエーションだ。

 もし増援部隊があくまでも我々の背後に回り込むことを目的とするのであれば、大幅な進路変更をせざるを得ず、その進路は艦隊外周に散らばっている偵察用スパルタニアンの精密レーダー範囲内であり、つまりは背後霊の正体がある程度バレる。

 まるで地球時代の帆船のような動き。宇宙船が太陽風などを頼りにする時代ではなく、核融合炉と高出力エンジンと重力制御によって自在に動けるようになったこの時代では、宇宙ヨットなどの娯楽でしか使われないようなテクニック。爺様だけでなくモンシャルマン参謀長もやはり老巧の人だ。

 これで敵艦隊は再び進路を変更せざるを得ない。あくまでも挟撃に拘るなら再び進路をこちらに向けるだろう。観測距離のタイムラグを除いた進路変更の時間を計れば、敵艦隊の索敵能力が分かるし、その動きによって艦隊機動の能力もおおよそ判断できる。言わずもなが、モンティージャ中佐は哨戒部隊に時間計測の指示を出している。

 二二〇〇時。敵艦隊が再び進路を変更した。こちら側の進路を再計算したのだろう、三時間後にはこちらの真正面有効射程内に同じような立方横
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