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『彼』

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もごもごと声を出した。



「ん?」



「気になるの?月夜の本名」



「興味本位で。まさか本当に『太郎』とかだったりして!」



「それは、ありうるな」



 犀も顔をあげ、二人は笑いあった。



「来年はーーー…」



 ふと、日紅が呟いた。



「あたし達、もう16だね」



「そうだな?」



 犀が頬杖をつきながら返す。



「…嫌だなぁ、大きくなるの」



「何故?俺は早く大きくなりたいよ。背ももっと伸ばしたいし」



「170もあるくせに何言ってるの!背伸ばしたいのはこっちだよ〜…。犀は伸びすぎ。ちょっと縮め。そしてその分あたしに頂戴。あ、その牛乳も頂戴」



 日紅はひょいと犀の牛乳を取ると、ごくごくとあっというまに全部飲み干した。



「…俺の金で買ったんだけど」



「気にしない気にしない。ハゲるよ?」



「……男にハゲは禁句だぞ」



 ちなみに犀の父、(サトル)36歳は既に生え際が危ない。



「そうなの?でも巫哉はハゲないね?もうとっくにおじいちゃんな歳なのにねーーー」



「おじいちゃんどころか生まれ変わって死んでもおつりがくるぐらいだけどな。」



 犀はふっと笑うと、日紅の頭をぐしゃぐしゃと撫ぜた。



「ちょ、な、何するの!?牛乳の恨み!?」



「そ。俺の背が伸びなくなったら日紅のせいな。目指せ200だから」



「200!?ありえない。てか、責任転換はよくないと思うよ」



「そういえばさ、日紅」



「ン?何」



「月夜ってさ、おまえが今みたいに学校に来てるとき、なにしてんの?」



「さぁ?あたしに巫哉のプライベートにまで干渉する権利ありませんからね。どっかのおネェちゃんとウハウハしてんじゃないの?」



「…おまえ、それが女子中学生の言うことか?」



「んじゃあ、犀は巫哉が何をしていると思うの?」



「俺か?俺は、そうだな…」



 犀は、ふと日紅の肩越しの窓の外を見た。



 目を細めて、強く、まるで射るように。





















 『彼』は思わずぎくりとした。



 気づかれた?いや、そんな、まさか。



 今、『彼』は誰にも、(あやかし)にすら視えないように姿を消しているのだ。ましてやヒトごときに気づかれるわけがない。



 だがそれでも、その視線は的確に自分を見ている気がし
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