第二部 1978年
ソ連の長い手
燃える極東 その3
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。
「なあフィカーツィアよ。俺の倅と一緒にウラジオくんだりまで行く話……。
了承してくれるであろう」
五十搦みの男が、壁際に直立する赤軍兵に向かって、声を掛ける。
鳥打帽に灰色の背広服……、何処にでも居るロシアの百姓といった風采。
声を掛けられたのは、小銃を担いで直立する白人の婦人兵。
年の頃は、二十歳くらいであろうか……。
軍帽の下にある淡黄蘗色の髪を束ね、透き通る様な色白の肌に碧眼。
白樺迷彩の野戦服の上から弾薬納を付け、将校を示すマカロフ拳銃を帯びている。
「ですが……」
右肩に担ったAKM自動小銃の吊り紐を、きつく掴む。
男は、カフカス訛りの強いロシア語で、滔々と語り始めた。
「野郎はクソ真面目だが、英語も上手いし弁も立つ。
贔屓目に見ても、グルジア人に生まれた事が惜しいくらいさ。
既に師団長には俺から話を通してある」
男は、混乱に乗じて密かに自分の子息と彼女を避難させること告げてきたのだ。
「俺は常々君に、あの男と所帯を持ってほしいと思ってたのよ。
最悪、太平洋艦隊でサハリン(樺太の露語名称)にまで落ち延びるってのも悪かねえなぁ」
懐中より、一枚の封書を取り出す
「こいつは、俺からウラジオの党関係者に当てた手紙だ。
政治局に出入りする人間が書いたものであれば、奴等も無下には扱うまい……」
手紙を両手で持ったまま固まる彼女を尻目に、男は話し続ける。
右の食指と中指に挟んでいた口付きたばこを口に近づけると、咥えた。
「なぜ、ここまでの事を……」
男は茶色の瞳で彼女を伺うと、頬を緩ませた。
改まった口調で、こう告げる。
「同志ラトロワ。俺は君の気に入ってたのだよ。
君の様な、聡明で麗しいスラブ娘の事を気に入らぬ男は居まい。
そんな唐変木が居たら、一度会って見たいものだ。
どうせ偏執な男色家か、気狂いであろうよ」
そう言うと、懐中よりマッチを取り出し、煙草に火を点けた。
「お心遣い、有難う御座います」
そう言って深々と頭を下げると、戸外へ向かって駆けて行った。
走り去る彼女の背に向かって、こう告げた
「小倅の事は頼んだぞ!」
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