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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第70話 アスベルン星系遭遇戦 その1
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モンティージャ中佐を射すくめる。中佐もいつものような軽快な表情ではなく、感情なく目を細めその視線に真正面から応える。

「現在の五〇隻の偵察広域展開はこのまま維持していただきたい。いまは三〇〇の拳より五〇の目の方が、はるかに重要かと」
「よろしい。ただし、この星系よりエル=ファシル側に展開している偵察隊は、この星系に集結させろ。『付け馬』にする」
「心得ました」

 爺様の即断即決に、ほんの一瞬だけモンティージャ中佐の唇が歪んだ。それが何を意味するかは分からないが、少なくともエル=ファシルの時に比べて中佐の殺気は明らかに高い。そして今度は爺様の視線が、俺を飛び越えて左隣に立つカステル中佐に向かう。

「カステル。補給参謀として意見はあるか?」
「通常三会戦分のエネルギーとミサイルはありますが、いずれも巨大輸送艦にあります。分離か同行かご指示いただきたく」

 一応『預かり物』の部隊をどうするか。武装はあっても機動力皆無の艦だ。同行させれば戦闘部隊の運動速度が低下する。分離させれば敵の別働戦力に捕捉された途端に容易く撃滅させられる。護衛艦を付けるだけの戦力の余裕は艦隊にはない。だが爺様は機動力よりも火力統制を優先するドクトリンに生きているから、答えは簡単だ。

「同行じゃ。敵の有効射程ギリギリまで、第四四に寄せさせろ」
「承知いたしました」

 自分の仕事は十分承知している。そちらの確認がしたかっただけだ、といわんばかりに馬鹿丁寧にカステル中佐は爺様に敬礼する。爺様はそれに小さくめんどくさそうに答礼すると、視線を左に動かした。

「ボロディン」

 その声はいつもの爺様の、何かと厳しくも家族のような甘さのあるおっかない親父さまの声ではなかった。峻厳であり、俺が産まれる前から戦場で修羅場をくぐってきた老軍人の声だ。

「何時間で正面の敵を打ち破ればよい。貴官の希望を述べよ」
「……可能であれば三時間で」

 その数字はハリージャス二号の喪失した方向にある跳躍宙点に、今まさに帝国軍の増援部隊が到着したという仮定に基づき、我が軍が主戦場に向かう時間と方向転換及び戦列再編成・簡易補給にかかる時間を加え、さらに予備として一時間足したものを、増援部隊が戦場に到着する時間から引いた『次会戦までにある時間的余裕』だ。

 実際にはこれから正面の敵艦隊の動きによって大きく変わるだろう。もし自分が敵の指揮官であった場合、それ以上の時間を同盟軍に負担させれば、背後霊を同盟軍にはっきりと認識させ、心理的にも有利となる。俺も司令部も背後霊に実体はないと確信してはいるが、他の部隊は違う。統合訓練をこなしていない寄せ集めの連合部隊が後ろを見ないで戦うのは、正直荷が重いし危険だ。

 そこで背後霊をぶちのめす為に、敢えて俺はアップルト
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