第三章
[8]前話
矢は風よりも速く空を切り裂く音を立ててだった。
虎を射抜いた、すると誰もが喝采した。
「お見事!」
「流石は李将軍です」
「虎を見事倒されるとは」
「まさに将軍は虎をも倒す英傑です」
「天下の弓手です」
「いや、待て」
だがここで皇帝が言った。
「あの虎はおかしくはないか」
「?そういえば」
「全く動きません」
「射抜かれても叫び声一つあげませんでしたし」
「死んだにしてもその前のあがきがありませぬ」
「おかしいですな」
「うむ、近くに寄って見るのだ」
ここはとだ、皇帝は周りに話した。
「そうしようぞ」
「わかりました」
「それではです」
「その様にしましょう」
「ここは」
「うむ、虎にしては明だからな」
皇帝はまた言った、そうして皆虎の場所に赴いた、すると。
それは虎ではなかった、大きさはそれ位であったが。
「岩!?」
「岩ではないか」
「これは」
「岩に矢が突き刺さっている」
「これは李将軍の矢だが」
「実に深く突き刺さっているな」
「弾き返されもせず」
皆岩に突き刺さっている矢を見て驚いた。
「何ということだ」
「将軍は岩を射抜かれたのか」
「これは虎を射抜くよりも凄いぞ」
「矢で岩を射抜かれるなぞ」
「恐ろしいまでだ」
「ただ矢を放っただけで岩を射抜くなぞ出来るものではない」
皇帝も驚きを隠せない顔で述べた。
「到底な」
「はい、それは」
「幾ら何でもです」
「無理なことです」
「それが出来たのだ」
李広、彼はというのだ。
「これは」
「将軍の弓がどれだけ素晴らしいか」
「ただ狙いが確かなだけでなく」
「矢に念を込めて石すら射抜く」
「そのこともですな」
「素晴らしいことだ、このことは書き残しておくべきだ」
皇帝はこうも言ってだった。
実際に李広のこのことを書き残させて後世に伝えることにした、そうして実際にこの話は今も残っている。
李広が名将であり弓の名手であることは伝わっている、それが為に岩さえ射抜くことが出来た。これが矢の一念岩をも通すということだ。今も残っているこの言葉のはじまりである。
矢の一念 完
2022・1・12
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