ノアの箱庭
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瞼を持ち上げた。わたし…いつのまにか寝ていたのだろうか。
「ノ、ア」
一度も見たことないような焦り顔でわたしを覗き込んでいるノアの顔があった。
わたしのからだ、なんだかおかしい…。うまく動かせない、ような。
視界の中でノアの顔が一瞬歪んで、次いでわたしのからだが浮いた。
わたしの異変に気づいたノアが、きっとみんなのところに連れて行ってくれようとしているのだろう。わたしはゆっくりと瞬きをした。
ノアの体、暖かい…今日はこんなに寒かっただろうか。ノアに抱え上げられても、わたしの中の血が地にしたたり落ちているみたいに血の気が下がっているようで、体が重い。
暫くノアに寄りかかり瞼を閉じてから、薄目を開けたわたしは、気づいた。
周り一面、見たことない風景だった。
そこは、箱庭の外だった。ノアは箱庭を出たのだ。
「ノア…」
ノアは答えなかった。わたしを抱えたまま、歩いていた。緑は徐々に減り、じきに地は乾いた砂と茶色い枯れ木ばかりになった。
わたしはどこにいくのと問おうとしたが、やめた。ノアは箱庭を出たのだ。おそらく、わたしのために。さっきノアは箱庭にいるべきじゃないと思ったばかりだから、それがどんな理由であれ、歩みを止めるようなことは言うべきじゃない。それにきっと、ノアはすぐ自由になれる。
「海を見に行こう」
問わないわたしの代わりにノアが答えた。海。見たことがない。それはきっと、青く輝き、全てを覆う程大きく、とてもとても美しいのだろう。ノアのように。
「いいえノア、わたしは虹が見たい」
わたしは掠れ声でぽつりと言った。ノアは聞こえなかったようで、わたしに耳を寄せた。
「にじ」
わたしはもう一度言った。
ノアはわたしを見た。その赤い瞳で。わたしは笑った。ノアはやはり、箱庭にいるべきではない。
「わかった」
ノアは頷いて歩き続けた。日が傾き、地上が薄闇に包まれてきても、わたしを抱えて歩き続けてくれた。いつ、どこに出るともわからない虹を目指して。まわりはもう、見渡す限り全て砂山だった。でも来た方向はノアが覚えている筈。
「ノア、ありがとう。もういいよ。ここでおろして」
わたしは言った。果たしてそれは声としてノアに届いていただろうか。
ノアはわたしをゆっくりと下ろしてくれた。小さな砂丘に寄りかからせてくれた。おかげでわたしにノアの顔が見えた。
言わ
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