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ノアの箱庭
ノアの箱庭
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「綺麗になっていたら、地球はこんなに放射能汚染が進んでなどいない」



「そしたらまた洗い流せば良いのじゃない?違うの?」



 わたしが首を傾げると、ノアはまたわたしをじっと見た。



 ノアの視線。それはいつもわたしを捉える。



「ねぇ」



 ノアはゆっくりと旧約聖書を閉じた。



「ノアはいつも何を見ているの」



 わたしはひとりごとのように言って、旧約聖書を受け取った。自分の中の疑問が言葉としてぽろりと(あふ)れただけで、ノアの返事は最初から期待していない。この旧約聖書が本棚からこぼれたのかと一冊分抜け落ちているところを探すけれど、あいているところはどこにもないので、わたしはそれを持って行ってマリーに聞くことにした。ノアの視線がわたしを追う。



 わたしは本来の目的であるマリーから頼まれた本をみつけた。



「ノア、これを持って行くのを手伝って」



 ノアは頷いて、わたしの指さす本の山に手をかけた。























「おはよう」



「おはよう」



 わたしたちは笑いながら朝の挨拶を交わす。



「ねぇ、ジャックは?」



 ふとマーガレットが言った。



 いつも朝食が楽しみだからと一番に起きてくるジャックが、確かに今日はいない。



「寝坊かな」



「マリーも今日は遅いね」



 マリーは朝食の湯気も消える頃、額に手の甲を当ててこちらに歩いてきた。



「遅いよマリー」



「みんなでもう食べちゃおうかって話してたんだよ」



「ねぇジャックも寝坊みたい。いま誰が起こしに行くか決めてたところ」



「マリーどうしたの?青い目が、私たちみたいに、真っ赤…」



「ジャックは、死んだわ。今朝」



 マリーがそう言って、わたしたちは一瞬、顔を見合わせた。



「だって、ジャックはまだ…」



「二十歳になりたてだったわね。でも『ノア』が二十五歳で死ぬのは目安だと言ったはずよ」



 マリーはいすを引き、(しばら)くジャックのために用意されていた朝食を見つめた。早起きするジャックのための朝食は一番はやく作られる物で、とっくに冷え切っていた。



「今日は、店は開かない。みんなで、花輪を作りましょう。ジャックのために」



 みんなはわたしたちのなかで一番若いジャックが死んだことに驚きをうけたけれども
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