ノアの箱庭
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だけど」
マリーは本当に残念そうに言った。
「『ノア』同士の交配で『ノア』は産まれないのよ」
自然発生を待つしかないのなら、それはマリー達にとってじれったいことだろう。
わたしはもう二十三歳だ。ここにいる『ノア』はみんな二十歳前後だ。もうすぐみんないなくなる。
わたしも、もうすぐ死ぬ。
わたしの世界は産まれた時から、ここだけだった。みんながいる。マリー達もいる。何の不自由もない。
わたしは何のためにうまれたのだろう。たまにそんなことを思ってみたりするけれど、春風のようにするりと忘れてしまう。多分、それはわたしにとってそんなに重要じゃないことだからだ。大事なことなのかもしれないけれど、わたしたちは考えると言うことに慣れていないから。
それよりも、わたしたちが死に絶えてしまったら、マリー達はどうするのだろう。
「『ノア』同士の配合じゃ『ノア』は産まれない筈、だけれど…試してみてもいい。結果がわかっていても、ね。それほどあなたたちは美しい」
マリーは赤い唇をつり上げてふふと笑った。冗談か本気かわからないけれど、どちらでもわたしたちにとっては大差ない。言われたことをするだけだから。
わたしたち同士で配合するなら…女性はわたし、アミ、マーガレット、そしてメアリー。わたし自身の顔の美醜はわからないけれど、メアリーのことはとても美しいと思う。
男性は、ジャック、マックス、アレン、そして。
わたしは顔を上げた。
視線がぶつかる。
ノア。
ノアという名の、『ノア』。人類の亜種『ノア』であるノア。
わたしも、ノアも、見つめ合ったまま視線を動かさない。
ノアは、とてもきれい。
わたし、配合するなら相手はノアだったら…いい…かもしれない。
でも配合されるなら、きれいな者同士が良いから、ノアとメアリーが一緒かな…。
わたしは一呼吸おいて視線を逸らした。いつも、目を逸らすのはわたしの方。ノアの視線はわたしから動かない。ノアはあまり喋らないけれど、真っ直ぐ見つめてくる。
「さあ、試食はここまで」
マリーの言葉にみんなが動き出す。ノアの視線もマックスの背に遮られる。
「リリー」
マリーに呼ばれてわたしは立ち止まった。
「本を持ってきて欲しいの。場所はわかるわね?」
わたしは頷く。
「ひとりじゃ多いかしら…
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