暁 〜小説投稿サイト〜
ノアの箱庭
ノアの箱庭
[3/9]

[1] [9] 最後 最初
だけど」



 マリーは本当に残念そうに言った。



「『ノア』同士の交配で『ノア』は産まれないのよ」



 自然発生を待つしかないのなら、それはマリー達にとってじれったいことだろう。



 わたしはもう二十三歳だ。ここにいる『ノア』はみんな二十歳前後だ。もうすぐみんないなくなる。



 わたしも、もうすぐ死ぬ。



 わたしの世界は産まれた時から、ここだけだった。みんながいる。マリー達もいる。何の不自由もない。



 わたしは何のためにうまれたのだろう。たまにそんなことを思ってみたりするけれど、春風のようにするりと忘れてしまう。多分、それはわたしにとってそんなに重要じゃないことだからだ。大事なことなのかもしれないけれど、わたしたちは考えると言うことに慣れていないから。



 それよりも、わたしたちが死に絶えてしまったら、マリー達はどうするのだろう。



「『ノア』同士の配合じゃ『ノア』は産まれない筈、だけれど…試してみてもいい。結果がわかっていても、ね。それほどあなたたちは美しい」



 マリーは赤い唇をつり上げてふふと笑った。冗談か本気かわからないけれど、どちらでもわたしたちにとっては大差ない。言われたことをするだけだから。



 わたしたち同士で配合するなら…女性はわたし、アミ、マーガレット、そしてメアリー。わたし自身の顔の美醜はわからないけれど、メアリーのことはとても美しいと思う。



 男性は、ジャック、マックス、アレン、そして。



 わたしは顔を上げた。



 視線がぶつかる。



 ノア。



 ノアという名の、『ノア』。人類の亜種『ノア』であるノア。



 わたしも、ノアも、見つめ合ったまま視線を動かさない。



 ノアは、とてもきれい。



 わたし、配合するなら相手はノアだったら…いい…かもしれない。



 でも配合されるなら、きれいな者同士が良いから、ノアとメアリーが一緒かな…。



 わたしは一呼吸おいて視線を逸らした。いつも、目を逸らすのはわたしの方。ノアの視線はわたしから動かない。ノアはあまり喋らないけれど、真っ直ぐ見つめてくる。



「さあ、試食はここまで」



 マリーの言葉にみんなが動き出す。ノアの視線もマックスの背に遮られる。




「リリー」



 マリーに呼ばれてわたしは立ち止まった。



「本を持ってきて欲しいの。場所はわかるわね?」



 わたしは頷く。



「ひとりじゃ多いかしら…
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ