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ノアの箱庭
ノアの箱庭
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個体が産まれ始めた。



 それらは一様に、髪と肌は抜けるような白色、瞳はガーネットのような緋の色を持っていた。



 従来の色素欠乏症(アルビノ)と違うところは、それらはすべて、恐ろしく整った容姿で産まれてくること。そして総じて短命だった。二十五歳ほどで尽きる命。



 いつ、どのような人種から、どうして生まれてくるか全くわからない。人類は、その突然変異個体を『ノア』と名付け、『ノア』と確認され次第、国際連盟への提出を人類総てに義務づけた。



 そうして提出され、または回収された『ノア』は一カ所に集められ、数人の研究員と共に『箱庭』と呼ばれる場所で暮らすことになる。その場所は十重二十重(とえはたえ)に隠された。



 今、いる『ノア』は、八体。女性と男性が半々だ。



「ノア」



 メアリーがみんなの輪のなかで微笑んだ。



 いつの間にかわたしの横に立っていたノアは無言でメアリーに顔を向けた。



 ノアはいつもあまり喋らない。



 わたしは目の前のオーブンを開けた。焼けたようだ。香ばしいにおいがする。メアリーが呼んでいるし、ノアには先にひとつ渡す。



 ノアと目があう。



 ふたつ瞬きをして、わたしは他の皆にお菓子を配るためにノアに背を向けた。



「ジャック」



「悪い。さんきゅ」



 やんちゃなジャックはくしゃりと笑って一口でお菓子を食べてしまった。



 もう一回焼こうかなとわたしがトレーを手に取ったとき、アミが横からいいよと笑った。



「リリーも食べなよ。おいしいよ」



 それはおいしいだろう。マリーがそう言うのだから。



「本当に、あなたたち『ノア』は宝石なんて目じゃないわ。飾っておきたいぐらいよ」



 マリーの熱弁はまだ続いているみたいだ。



 『ノア』はとてもとても美しい、らしい。でも『ノア』であるわたしにはよくわからない。わたしの顔なんて自分で見たことがない。さらりと風が通り過ぎて、日の光を弾くわたしの長い髪がきらきらと腕に沿って流れた。



 わたしたち『ノア』の日常は、マリーたち研究員に言われる。いつもは、この壮大な草原の真ん中で、なにか売っている。商品はマリーたちが決める。わたしたちはそれを作れば良い。立ち寄るのは旅人。今日はお菓子だったが、それは毎日変わる。



「ねぇマリー。『ノア』を増やすために、わたしたち同士で結婚するの?」



 マーガレットがさくりとお菓子を食みながら小首をかしげて言った。



「残念
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