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片方の髭
第二章

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「こうしてな」
「時には騎士になり」
「街や村を隅から隅まで見たりな」
「隊舎にも入って」
「今からする様にな」
「内実まで知って」
「そしてな」
 そのうえでというのだ。
「政を行うべきだ」
「それが王のやり方ですな」
「うむ、ではな」
「これよりですな」
「しかと見よう」
 兵達の金遣いの荒さの実情をとだ、こう話してだった。
 王は従者と共に隊舎に入った、すると。 
 彼等は飲んで賭けごとに興じていた、そしてだった。
 馬鹿騒ぎの中にあった、そして飲んだくれる中で話していた。
「金なんて幾らあっても足りないな」
「全くだ、おかげで質屋通いが止まらないな」
「俺この前盾を質に入れたぞ」
「俺は鎧だ」
「俺は剣だ」
「金目のものはあるからな」
 武具がそれだった。
「そうしたものを質に入れればいい」
「貰った給料以上に使うんならな」
「それなら武具を売れ」
「剣でも何でも売れ」
「そうして金を作れ」
「そうして遊べ」 
 王が見ているとも知らずこんな話をしていた、そうしてだった。
 大酒を飲み賭けていき挙句には酔い潰れた、従者はそんな彼等を呆れ果てた目で見ながら王に話した。
「これは酷い」
「いや、こうしたことはよくあるのだ」
「あるのですか」
「あちこちの国でな」
「武具を質に入れてまで遊ぶことが」
「そうだ、別に珍しいことではない」 
 王は呆れている従者に落ち着いた声で述べた。
「だからそこまで怒ることはな」
「ありませんか」
「左様、しかし戒めねばならぬことは確か」
 このことはと言うのだった。
「だからなこれから少し戒めてやろう」
「どうされますか」
「これを使う」
 笑って言ってだった、王は。
 その手に剃刀を出した、そうして。
 酔い潰れている兵達の髭、口や顎のそれを半分ずつ剃っていった。右は残して左だけそうしていった。
 そのうえでだ、従者に話した。
「これでよい、外に出ればどうなる」
「これは笑い者ですな」
 従者は実際に今の片方だけ髭がない彼等を見て吹き出しそうになっていた。
「実に」
「そうであろう」
「はい、それでは」
「我等はこれで去りな」
「後はですな」
「この者達が笑われるのを見よう」
 王は笑顔で述べた、そのうえで隊舎を後にした。
 後日酔い潰れ王に髭の半分を剃られた兵達はその姿を人々に観られて笑われた。
「何だあの髭は」
「酔い潰れている間に誰かに悪戯で剃られたか?」
「兵隊や騎士が酔い潰れてそれはないだろう」
「全く何やってるんだ」
「最近遊び過ぎだしな、あいつ等」
「武具まで質に入れてそうしてるらしいぞ」
「挙句にあれか」
 その片方だけ髭がないみっともない姿を見つつ話した。
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