慰霊祭とシトレの思惑
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「首脳部の作戦指揮がまずかったからさ…」
ヤンが呟いた。独白にしては声が大きかった。周囲の数人が愕然として、黒い髪の若い士官を見やった 。ヤンがその一人の目を直視すると、相手は狼狽えたように視線を壇上にもどした。
その視線のさきでは、国防委員長の演説が延々とつづいている。トリューニヒトの顔は紅潮し 、両眼に自己陶酔の輝きがあった 。
「相変わらずの弁舌だな…」
そして慰霊祭に参加した軍人の一人であるアラン・クロパチェク大佐、彼は式典の最中ややうんざりしながらそう呟く。ただそのつぶやきはトリューニヒトの演説に隠れて誰の耳にも入っていなかったが…。
「さぁ、今こそ立ち上がろう!!祖先が立ててくれたこの国を、この自由と平等を共に守るために戦おうではないか!!祖先が!散っていた英霊達が!守り愛した我等が祖国のために吾々は立ち上がろう!いざ戦わん!!祖国の、自由のため!自由惑星同盟万歳!!民主共和主義万歳!!帝国を!!専制主義を打倒せん!!」
トリューニヒトの最後の一言で民衆の理性は吹き飛んだ。会場は怒号に包まれる。
「「「自由惑星同盟万歳!!民主共和主義万歳!!帝国を倒せ!!」」」
トリューニヒトは聴衆の熱狂に満足していた。そして聴衆の熱狂が収まってから再度演説を始めようとするが、全員が起立していたにもかかわらず座っていたヤン、更には聴衆の席の間にある通路を通り演壇に進む一人の女性によって演説を中断させられる。そう、戦死した第6艦隊幕僚ジャン・ロベ−ル・ラップ大佐の婚約者、ジェシカ・エドワーズの糾弾によってであった。
彼女は
『あなたは国家に対する犠牲を賛美しているが、それを国民に強いる自身はそれを実行しているのか?自分の家族はどこにいるのか?』
とトリューニヒトに対し痛烈な批判を行ったのだ。
その鬼気迫る弾劾にさすがのトリューニヒトといえどもたじろがざるを得なかった。
彼はすぐさま警備兵を呼び、彼女を半ば強制的に退場させた後、軍楽隊による国家の吹奏によって、その場を凌ぐのがやっとであった。この慰霊祭での騒動は、カメラ等できっちりライブ配信されており、マスコミに大きく取り上げられ、人々はこの騒ぎの主役であるラップ夫人に好奇の目を向けたのだった。
こうして自由惑星同盟軍統合作戦本部ビルにおいて行われた慰霊祭が少なからぬ波乱のうちに幕を閉じてから数時間後、ヤンとクロパチェクの2名はかつての恩師であり、現在は自由惑星同盟軍統合本部長であるシドニー・シトレ元帥から呼び出されていた。
「ヤン"少将"、クロパチェク"少将"。よく来てくれた、まぁかけたまえ」
ヤンとクロパチェクは勧められるままソファーに腰掛ける。
「2階級特進とは驚かされますね。敗戦の責を取って自裁せよという命令ですか?
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