火車
[8/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
こんな無茶苦茶なことをしたら何らかの罪に問われることだろう。よくは分からんが死体損壊、とか。
「………死体」
そ、そうだ、体……!脳?はもうどうとでもなればいい。俺の関知しうる問題じゃない。この場合、真の問題は『ガワ』をどうしたのかだ。人の死体が敷地内に放置されている、という状況はとてもまずい問題を内包している。
「ガワはどうしたんだ!?」
「なんだ唐突に」
「あっ…し、死体だ!まだあるんだろ、この辺に!!」
あぁ…と、心底面倒そうに息を吐くと、奉は洞の片隅に立てかけてある鉄さびた鉈に昏い視線を投げた。
「切って、埋めたよ」
……まじか。
視界が、ぐらりと歪んだ。歪んだ視界はぎゅるぎゅると渦を描き、一点に吸い込まれるように回り続ける。
「……切って、埋めた……?」
「心底疲れたねぇ。当分、力仕事は御免蒙るよ」
冷気のせいで気が付かなかったが、洞の奥底に鉄臭い空気が溜まっている気がする。ここで、この洞で薬袋を…?吐き気とも呻きともつかない妙な気配が喉元からせり上がって来た。
「なんで、警察を呼ばなかった」
吐き気を堪え、なんとか声を振り絞った。
「まったくだねぇ」
鋸から視線を外すと、奉は洞の天井をぼんやりと見上げた。
「―――奴の遺族はどうして、警察を呼ばなかったんだろうねぇ」
言葉が、出なかった。
棺には、石が詰められていた。…誰が?
死体の損壊が激しく、棺を開けられない状態だったとしても。家族は確認できたはずだ。少なくとも棺に石が詰められていれば、持った時に違和感を覚えただろうに。
死体不在の状態で、葬儀は執り行われたのだ。何事もなかったかのように。
「…ご遺族は、何で…」
「彼らの気持ちまでは分からんよ。ただ」
気が付いてたんだろうねぇ。そう云って奉はガラスの容器に手を置いた。
「薄々か明確にかは知らんよ。次期後継者のセンセイが、良からぬ性癖の持ち主で、違法な手段で妊婦の死体を集めていたことや、『何か』の怒りを買ったらしいことにはねぇ」
―――そうかも知れない。奉や静流は元より、今泉や榊さんのような、少し勘のいい一般人ですら薄々違和感を覚えていたのだ。あの病院の地下に何があるのか、近しい人間が気づかないと考える方がおかしいじゃないか。
「それで、死体がなくなったのを確認した親族が…その状況自体を隠して…?そんなことあるか、いくら生前ヤバい奴だったからってなぁ…死体がなくなったことを隠すなんて」
「――警察を呼ばれること自体が、ヤバかったんじゃないかねぇ」
…ありうる話だ。俺が知っているだけでも、あの敷地内には何十体という女の亡骸が埋まっている。正直、今回の地盤沈下の一報を聞いた瞬間、それらが陽のもとに晒されて大騒ぎになる展開が脳裏をよぎったものだった。
警察はと
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ