火車
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音を立てて落ちた。
バックライトを頼りにしていたつもりだった。しかし光を失ってもなお、『それ』が俺の視界から消えない。発光しているのか、光源が別にあるのか。
―――これは、皮肉か。
そう思わずにはいられなかった。
風穴の最奥に設えられた、石の祭壇。そこに鎮座するのは、透明な液体が満たされた筒と、その中央で蠢く肌色の塊。皺に覆われた球体のような、その塊は。
「お前、これ…」
「どっかの誰かの、コレクションみたいだねぇ」
そう吐き捨てると、奉は再び低く笑った。…その肌色の塊…彼の、恐らく『彼』の脳が、青白く光る液体の中で、ゆらりと向きを変えた。それと同時位だろうか、地に落ちた俺の携帯が、淡い光を点して振動し始めた。LINEの着信だ。
「あぁ」
不意に現世に引き戻された気がして、慌てて携帯を拾い上げる。静流だろうか。静流であってくれ。祈るような気持で画面を覗く。…再び、取り落としそうになった。
―――『変態センセイ』のグループLINEだ。あの地下室の茶会以来、ほぼ薬袋しか使っていないはずの…。今更、誰が。初夏にも冷気に満たされたその風穴にあって、俺はじっとりと嫌な汗をかいていた。
『ひ ど い よ』
「………は?」
シンプルな驚愕の言葉が転び出た。グループLINEに投稿している奴は『薬袋』。確かに『薬袋』だ。思わず目の前の光る筒を凝視した。
「原理は分からないんだよねぇ。俺は機械に疎いのでね」
「疎いとかそんな問題では…」
『いたかったよ』
『かんかくきかんは、せつだん されている』
『いたいよ じつはまだいたい』
『そこにいるね』
『わかるよ なにで はんだんしているのか われながらわからない』
『きみからは どうみえるんだい』
「返事してやらないのかい」
「出来るか…!どうなってんだよ」
「正直なところ、何も分からん。分かっているのは」
薬袋は産土神に拒まれ、その遺体を玉群に放り込まれたということだ。奉はそう呟き、小さく息をついた。
「遺体、というと語弊があるねぇ。境内に放り込まれていたのはそこの脳…みたいなやつと、薬袋の体の残骸だよ」
「脳…みたいなやつ!?」
「みたいなやつ、としか言いようがないねぇ。そいつがもしも脳だというなら、体から切り離されて放置された時点で死んでいるはずだろうが」
―――そうなのだ。
摘出された脳が培養液のなかでぷかぷか浮いて意識を保っているなんぞ、SFの世界だ。そんなことを可能にするようなオーバーテクノロジーなんぞ、存在する訳が……
「奉、お前」
「俺になんの得がある」
「それな」
そうなのだ。もし奴が『そういう方向』の異能があったとして、こんな形でこの男を生かしたところで何の得もない。それどころか法治国家で
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