火車
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ていた。
「もういい、単刀直入に云え。何が隠してあるんだ」
「いいのかい、単刀直入に云って」
「いいから云え」
―――変態センセイを、隠してある。
風穴のせいだけではない寒気が、背筋を這い上ってきた。
スマホのバックライトをかざして、冷たい空気に沈み込んでいく。『変態センセイを隠してある』という爆弾発言を聞いた上で、その隠し場所に踏み込む。我ながら頭がおかしい行動だが、他に選択肢がなかった。奉が生きてきた時代がどうだったのかはさておき、現代には『刑法』が存在する。奉が薬袋の死体を盗み出し、あまつさえ隠匿、もしかしたら損壊などしていたら。そしてそれが明るみに出る事があれば。
「縁ちゃんはどうなるんだ…」
名家の長男が死体誘拐。この街は混乱に陥り、縁ちゃんはこの街には居られなくなることだろう。変態センセイには悪いが、この事はどんな手を使ってでも永遠に闇に葬らせてもらう。しかしこの男は。何故、何の目的でこんなことを。
「…俺が意図的に、薬袋の死体を盗んだと思っちゃいまいねぇ」
「違うのか!?」
つい反射的にバックライトで奉の顔を直撃してしまった。奴はうるさそうに目を顰めて、ふいと顔を反らした。
「俺が死体盗難のようなアバンギャルドな犯罪に手を染めると思うか。俺はただ静かに暮らしたいんだよ」
「何処ぞの手首蒐集家のようなことを云うな。死体盗みそうな気がしてきただろ」
とはいえ、奉の云う通りだ。奉のような怠け者が、わざわざ薬袋の死体を盗んで自分の平穏を脅かす意味が分からない。ならば何故、薬袋の死体がここに隠される事になったんだ。
「…薬袋の死体は、ずっとここに在ったんだよねぇ」
薬袋の葬儀が始まる前からな。そう云って奉はぴたりと足を止めた。
「そいつが境内に放り込まれたのは、薬袋の死後1日目の夜だった。…焦ったねぇ、杜に担ぎ込むのも、風穴に隠すのも、全部俺一人の仕事ときたもんだ」
馬鹿か。俺は思わず舌打ちした。
「なんで警察呼ばずに隠した!?とっとと警察沙汰にすればこんなややこしい事にならなかったのに!!」
「ややこしい事…?」
くっくっく…と、奉が低く笑った。
「なってるかねぇ?…ややこしい事に」
「……あ」
携帯の薄明りを眼鏡の縁で照り返して、奉が再び笑った。
「おかしいとは思わないかい?主役が忽然と消えたというのに、葬式は決行されたんだよねぇ。棺にはご丁寧に石まで詰められて」
確かに妙な話だ。身内が直々に死体の失踪を隠匿した、ということになる。何故。何の為に。
「まさか、死体を境内に捨てていったのは…!」
「落ち着け、身内じゃねぇよ」
風穴の奥。冷たい風が一層強まる奥底の一角に『それ』は、在った。
握りしめていた携帯は、力を失った俺の掌から滑り、かつ、と乾いた
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