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霊群の杜
火車
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どころじゃない』というにべもない返事と共に音信不通になっていた。


―――『めんどい』ではなく『それどころじゃない』。


ここが、大いに引っかかっている。ここ最近の憔悴しつつ焦っている感じからして、確かに奉にとって大変なことが起こっていることは確かなのだろう。
ということは俺は、またしても望まぬ面倒事に巻き込まれに行く。…ということ。悶絶するほどイヤだが、これを放置するとさらに膨れ上がった『のっぴきならない面倒事』として、忘れた頃に襲い掛かってくるのだ。…経験則上。


最後の石段に足を掛けたあたりで、境内の中央に佇む陰に気が付いた。……思ってもみなかった男が、佇んでいた。
「―――何故、お前が、そこに」
「何を云っているんだ?俺が俺の住処にいるんだろうが。何がおかしい」
「だってお前…お前と云えば、人を一方的に呼びつけておいて、出迎えももてなしも全部きじとらさんに丸投げで、自分は洞の奥で本読みながらふんぞり返って『で?甘味は?』とか当然のようにほざく男だろう。まさかお前が殊勝にも、境内でお出迎えとは」
奉がつまらなそうに顔を上げた。日当たりのよい場所でこいつの顔を拝むのは、何週間振りだろう。肌が弱いとか、日光が目に障るとかいう話は聞いた事がないが、とにかく奉は日当たりのよい場所を嫌う。悪霊のような嗜好ではないか。こいつは本当に『神』なのだろうか。眼鏡が陽光を反射するのか、その表情は伺えない
「仕方なかろうが。まさかきじとらに気取られるわけにはいかないからねぇ…」


―――まて貴様、俺を何に巻き込むつもりなんだ!?


「おい奉、ちょっと話を」
「きじとらには使いを頼んでおいた。2時間は戻るまい。急げ」
そう言い捨て、奉は踵を返して足早に境内の裏側に消えた。…急げ、なんて言葉をこの男の口から聞く日が来るとは。



「この、風穴だ」
鎮守の杜を散々歩き回った末に、山の中腹あたりの窪地に連れ込まれた。
「……なんだこれ」
「風穴だ。山の洞窟近辺で見たことはないか」
窪地に穿たれた小さな横穴から、頬を切るような冷たい風が漏れだしてくる。そう云えば小学生の頃の遠足で、夏なのに冷たい風が噴き出してくる穴に、クラス全員で争うように群がった事があったような。鎮守の杜に、そんな大層なものがあったとは知らなかった。
「この奥に、隠してある」
「何を」
「………何から、話したものかねぇ」
奉はしきりに頭を掻きながら不自然に口ごもる。木陰に入って伺えるようになった奉の瞳には、明らかな『困惑』が見てとれた。おかしい。こいつは永久に困惑『させる』側の人間だと思っていた。
「ううむ、まずはあれから…いや、しかし…」
肌寒い風穴の前に佇み、首をひねったり頭を掻いたりを繰り返す奉に、俺は徐々に苛立ちを覚え始め
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