第2部
スー
浅瀬の祠
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
ている人などこの中にはおらず、沈黙が続くはずだった。だが、その言葉に呼応するかのように突然骸骨の体が光りだしたではないか。
《私はいにしえを語り伝えるもの。誰かがここへ来るのをずっと待っていた》
「ひっ!?」
心の中に直接語り掛けるような声。それは以前カザーブで師匠の霊に会ったときと同じような状況だった。
《汝らに伝える。イシスの南、ネクロゴンドの山奥にギアガの大穴ありき。全ての災いはその大穴から出ずるものなり》
そこまでいうと、骸骨は光を失い、元の状態に戻った。
「ギアガの大穴……?」
ユウリが眉をひそめる。博識な彼でも知らない言葉のようだ。
「も、もう幽霊いないよね?」
相変わらず私は幽霊に怯えながら、辺りを何度も見回して確認する。
「ああ。おそらく俺たちに今の言葉を伝えたことで、この骸骨の未練が消えたんだろう」
それにしても、生前の彼は一体どういう人だったのか。私たちが及びもつかないくらいの長い年月もの間、誰も訪れることのない海の底で、拷問ともよべる仕打ちを受け、一人でただひたすら待っていたのだとしたら、どれ程辛くて苦しかったことだろう。今となってはこの人について知るよしもないが、もし私たちがここに来たことで未練が断ち切れたのなら、少しは救いになったのではないか、そう思いたい。
「ユウリさん!! 下、見てください!!」
突然ルカの言葉により現実に引き戻され、反射的に下を見る私とユウリ。
見ると、先ほどまでなかった海水が、足首まで浸かっている。ひょっとしてこれって……。
「渇きの壺の効力が切れてきているのか!?」
あいにく渇きの壺はヒックスさんに預けてある。恐らく海の水をある程度吸い込んでも、長時間は持たないようだ。
このままでは皆海の底に沈んでしまうと判断した私たちは、ヒックスさんのいる小舟へと急いで向かった。
「皆さん、早く戻ってください!!」
小舟に乗っているヒックスさんは、私たちの姿を見た途端切羽詰まった表情でそう呼びかけた。
言われなくてもそうするつもりだった私たちは、すぐさまヒックスさんが乗っている舟に乗り込む。
「何かあったんですか?」
私が尋ねると、ヒックスさんはいつになく青ざめた様子で私たちを見回した。
「大変です、この近くに、テンタクルスがいます!!」
「何!?」
テンタクルス、という言葉に唯一反応したユウリが愕然とした顔でヒックスさんを見返す。それって何?と聞こうとしたのだが、二人とも切羽詰まった様子だったので、私は言葉を飲み込む。
「まずい、気づかれた!」
それに聞かずとも、このすぐ後の光景ですぐに理解することができた。
なぜならヒックスさんの声が上がると同時に、海面から大きな水しぶきを立てて『そいつ』は現れたからだ。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ