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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第68話 おかわり 
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感じている。

「フィンク中佐が君に何を言ったか、君に問うつもりはない」

 フィンク中佐にしてもユタン少佐にしても、『お前の親父のせいで俺達は逃亡者の汚名を着せられたんだ』などと責め立てるようなことを言うような、ある意味ではまっとうな神経の持ち主ではない。むしろヤン達と一緒に脱出した自分の家族から責め立てられても、同様に世間から卑怯者の娘と白い目で見られる彼女を、保護者として守ろうとしている。そしてはっきりと部外者であるレッペンシュテット准将にですら感じるほどの『過剰な忠誠心』を俺に向けている。

「だが君の人生は君自身のものだ。少なくとも君以外の誰のものでもない。だから君が軍人になろうという意思を俺は否定するつもりはない」
「……」
「勘違いだったら嘲ってくれて構わないが、君が軍人になることで『私』に対して何らかの義理を果たそうというのであれば、それは明確に拒絶する」

 自分でも随分と思いあがったことを言っているなと思ったが、拒絶という言葉を聞いた瞬間、彼女の体に緊張が走ったのがわかった。俺に裏切られたと思ったかもしれない。だがこれでもう中佐達が彼女に何を言ったかは、はっきりとわかる。だからこそ彼女が軍人になるというのであれば、理解してもらわねばならない。

「前にハイネセンの司令部で君に言ったことを覚えているか?」
「……父の、ことでしょうか」
「そうだ。その時、俺は君に言ったはずだ。自由惑星同盟の軍人は国家と民主主義の精神によって立つ市民を守るために武力を行使する存在であると」
「……はい」
「個人への忠誠心ゆえに戦うのは民主主義国家の軍人ではなくただの私兵に過ぎない。民主主義の思想と精神と制度に対する忠誠の為に、戦うべきなんだ。軍人の本質は人殺しだ。個人への忠誠の為に振るうのであればそれはマフィアの手先の殺し屋と何ら変わらない」

 これはヤンがユリアンに常に抱いていた矛盾だろう。良いか悪いかはともかく、ヤン・ファミリーは大なり小なりヤンに対する感情と忠誠心によって固められていたと言っていい。ヤンに対して忠誠より友情の比重が大きかったのは、恐らくはキャゼルヌぐらいだろう。『ファミリー』とはよく言ったものだ。

 人に感情がある以上、人は人に従うのであって理念に従うわけではない。それはわかる。わかるが……

「以前言ったように、君がリンチ少将閣下の家族であるからと言ってその罪を背負う必要はない。同じ意味でそれを庇っているように見える俺や司令部の行動に対する義理も背負う必要はない。君や中佐達の好意はうれしいが、俺も司令部も君達に忠誠や自己犠牲も求めて行動したわけではないんだ。どうか、それを分かって欲しい」
「はい……」
「それと軍人になると言っても、君に下士官や兵士は無理だろう」
「……そうでしょうか
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