第二十六章 夢でないのなら
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悔しげに、ぎゅっと拳を握った。
拳を握り、青ざめた顔で、もう一回、もっと小さくため息を吐くと、
「ごめん」
カズミへと、頭を下げた。
「なにがだよ。あたしがつまんない冗談をいったことに、なんでお前が謝るんだよ」
「違うんだ。わたしね、あの時……もうどうなってもいい、って思っちゃったんだ。こんな世界、って。それどころか、滅べとすら、思ってしまった」
修一、直美の、酷たらしい姿に、精神が闇に落ちた時のことだ。
「赤ちゃんが、生まれてくるはずだったのに! 死を覚悟しているわたしたち魔法使いとは、二人はまったく関係ないのに!」
まったく関係ない、ということはない。
二人とも、元リヒトの研究員だったのだから。
ただし、幼いアサキを助けて逃げ出した際に、魔法によりリヒトでの記憶はすべて失っており、そうした意味では確かにまったく関係ない。
最後の最後に記憶が戻ったとはいえ、ずっと単なる一般人として生活していたのだから。
「でも、これじゃいけないって、抗わなきゃって理性も、心の奥にはあって……あった、のだけど、カズミちゃんたちがヴァイスタに飲み込まれたのを見て、至垂所長の笑い声を聞いて、もう完全に、心が壊れちゃって……」
記憶が、蘇る。
話すほど、動揺し、
動揺しているのに、するほどより鮮明に。
思い出したくもない、嫌な記憶が、はっきりと。
中央結界、最中央に立つ、光の柱を。
怒濤にうねる白い大河。
液状化した、ヴァイスタの流れを。
自分は、頭の半分を、切られ砕かれ失って。
炎に崩れて、ほぼ原形をとどめていない。
その前に仁王立つ、白銀の魔法使い。
気付けば前に、カズミと、治奈。
肉体が、どろどろに溶けている状態。
再構成、つまりヴァイスタ化を待つばかりという状態。
ヴァイスタの、白い川の流れが、鎌首を持ち上げ、伸ばし、そんな二人を、一瞬にして飲み込んだ。
大笑いしている、白銀の魔法使い。
そんな光景を見せられて、
友の必死をバカにされて、
崩壊寸前だったアサキの精神は、限界に達してしまったのだ。
「でもね、暴走するわたしの前に、ウメちゃんがふわっと現れてね、ダメだよ、って優しい声でいってくれたんだ。わたしを、そっと抱き締めてくれたんだ。……それは、単なる幻だったのかも知れないけど」
「そっか……」
カズミは、俯きがちなアサキの、顎に指で触れ、ちょいと起こすと、微笑みながら、
「それは、幻なんかじゃないんだよ、きっと。ま、お前があまりに頼りなさ過ぎて、ほっとけなかったんだろうな」
「だろうね」
アサキも、笑みを返
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