第二十六章 夢でないのなら
[8/19]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
カズミは、アサキへと抱き付いていた。
不満げに唇を尖らせながらも、背中に腕を回してぎゅうっと強く。
強く。
感触、温もり、息遣いを確かめるように。
「本当に、アサキなんだな……」
ぼそり。
吐息に似た声。
「そうだよ、カズミちゃん」
アサキの顔には、微笑みが浮かんでいた。
知らず腕を回して、二人は抱き締め合った。
お互いの存在を、確認し合った。
どれくらい、そうしていただろうか。
「うくっ」
アサキは、しゃくり上げた。
不意に、感が極まってしまったのだ。
たっぷりの涙が、目から溢れていた。
ぼろり、こぼれた。
堪え切れず。
ぼろり、ぼろりと。
「ば、ばかっ、泣くなよ濡れちゃうだろ。この泣き虫の弱虫のオシッコ漏らしの鼻タレ女!」
「……もっといって」
罵詈雑言を、ねだった。
以前に戻れるわけはないけれど、ちょっとだけ、思い出が心地よくて。
「はあ? バカになったんか。ああ、元から大バカだったよな」
「そうだよ」
泣き顔を隠そうと、頬を、カズミの頬へと擦り付けた。
笑いながら。
「自分でいうなよ。……ヘタレで、泣き虫なくせに、とてつもなく強くて、どうしようもなく優しくて、ほんと、最高の大バカ、だよ、お前は。ったく、生きて……まだ、くた、ばって、なかったの、かよ……」
カズミは、ぶるっと身体を震わせた。
より強く、アサキを抱き締めた。
彼女の方こそ、感極まって泣きそうになっており、顔を見られまいとしていたのである。
結局、本当に泣いてしまった。
顔は密着でアサキからは見えないけれど、息遣いから分かる。
カズミは、すすり泣いていた。
ヘタレだの、バカだのと、乱暴な言葉を吐いてごまかしながら。
「カズミちゃんこそ。どろどろに溶けて、ヴァイスタに飲み込まれちゃって、死んじゃったんだと思っていた。よかった。生きて、生きててくれて、本当に、よ、よかっ……よかったっ」
アサキも、カズミの態度に対し、自らの感動を押さえることが出来なかった。
二人は、わんわん声を立て、泣き始めた。
嗚咽から、大声の感泣へ。
かたく抱き締め合ったまま。
二人は、上を向いて。
随喜の涙を、こぼし続けた。
やはり、夢では、なかったのだ。
リヒトの建物の中で、戦ったことは。
つまりは、みんなが死んでいったことも。
それは、悲しいことだけど……
でも、でも、こうして生きていた。
カズミちゃんは。
生きていて、くれた。
いまはただ、それを喜ぼう。
4
ようやく、泣き終えた。
激しく揺れる気持ちが、落ち着いた。
でも、その後も
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ