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第五章
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「一体」
「学問の為ですが」
「そう言って信じると思うか」
「ですがその通りなのです」
「それで通じる筈がないことはお主もわかるな」
 この状況ではというのだ、奉行所の者がわざわざ出島に入って来てそのうえで問い詰めにかかっている状況ではというのだ。
「最早」
「そういうことですか」
「そなたも取り調べる、よいな」
 こうしてだった。
 シーボルトは実際に徹底的に取り調べられた、その中で彼に地図を渡した高橋も捕らえられ厳しい尋問の中で獄死したと聞いた。
 他にも多くの関係者が捕らえられ厳しい取り調べを受けた、それは江戸でも長崎でも行われ多くの者が処罰され。
 シーボルトは追放されることとなった、彼は出島を出る時日本の妻子に別れを告げてその後でだった。
 彼を見送るオランダ人達に言った。
「貴方達の言うことを完全に聞いていれば」
「日本はそうした国だ」
「厳しいところは厳しい」
「地図についてはな」
「その国によって厳しい部分がある」
「他の国では考えられないことでも」
「その国にとっては大事なことがあるのだ」
 オランダ人達はシーボルトにこの時も話した。
「例え国防がなおざりな国でも」
「彼等なりに考えていてだ」
「警戒していることもある」
「そういうものだ」
「そして大事なものは肌身離さずだ」
「そうして持っていた方がいい」
「さもないと最悪の事態が起こった時さらに悪いことになる」
 そうなるとも話した。
「今回の様にな」
「そしてそれが多くの者を巻き込んだりもする」
「そんなことにもなる」
「卿は確かに悪気はなかった」
「軍事的な意図もなかった」
「だがそれでもだ」
 シーボルト自身がそうであってもというのだ。
「世の中それで納得出来ない者もいる」
「そうした国もある」
「君もこれでわかっただろう」
「そうなっただろう」
「もうそれは顔に出ている」
「その通りだよ」
 シーボルトはこれ以上はないまでに憔悴しきり苦りきった顔で答えた。
「嫌になるまでに」
「そうだな」
「ではこのことを忘れないことだ」
「そのうえで帰るのだ」
「そうすることだ」
「そうさせてもらう、しかし私はこの国にこれ以上はないまでの愛着も持った」
 シーボルトはオランダ人達にこうも話した。
「だからまただ」
「この国に来るか」
「そうするのか」
「そう考えているのか」
「その時が来れば、その時まで私はそうなる様に動きそして生きる」 
 最後にこう言ってだった。
 シーボルトはオランダ人達と別れの挨拶をしてそうして船に乗った、船の中で彼はずっと日本の方を見ていた。
 やがて歳を重ねてから開国された日本に再び来て妻子と再会したシーボルトはその手に日本の地図を持って周りに話した。
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