第四章
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「ないと思うが」
「それでもですか」
「ローマが東に拡がるかあの国が西に拡がりな」
「そうしてですか」
「ペルシャがなくなりな」
ローマを東から脅かしているこの国がというのだ、パルティアも脅威であるがこの国も脅威であるのだ。
「あの国と接すれば」
「その時はですか」
「ローマは徹頭徹尾守りに徹しな」
そうしてというのだ。
「決してだ」
「あの国とは戦いませんか」
「自分達からはな、確かにローマは強い」
皇帝はこのことは否定しなかった。
「しかしだ」
「そのローマ以上にですね」
「強い国がある、そのことを頭に入れ」
そうしてというのだ。
「治めていき何かあればな」
「こちらからは攻めない」
「そうしよう」
こう言ってだった。
皇帝は以後遠い東の帝国のことを考える様になった、遥か遠くにあり境を接していないが決して戦ってはいけない国だと。
そして後に噂で漢が乱れたと聞いてローマのこの国を知っている者達は安堵した。
「そうか、あの巨大な国がそうなったか」
「ならいいな」
「もうこちらに攻めて来ることはない」
「内で争い乱れ弱まるのなら」
「もうそれはない」
「それは何よりだ」
こう言うのだった、そして胸を撫で下ろした。
だがここで彼等は自分達が漢でこう呼ばれていることには少し首を傾げさせた。
「大秦?」
「そこの王だと?」
「そして皇帝は安敦だったとか」
「マルクス=アウレリウス=アントニウスではなく」
「安敦か」
「そして秦という国があって」
漢のその中にだ。
「その西にあり大きいからか」
「大秦か」
「その国の主であるが王か」
「皇帝なのだが」
「あちらは自分達以外の皇帝を認めないか」
「そしてか」
彼等は考えつつ言った。
「あちらの言葉が訛り」
「マルクス=アウレリウス=アントニウスがか」
「安敦となったのか」
「まさか我々がそう言われるとはな」
「あちらでは」
「それは意外だな」
「思いも寄らなかった」
こう言うのだった。
当時のローマと漢は比較すると人口と領土の面積は大きな開きはなかった。だがその総生産は何と漢はローマの十五倍もあったという。
資源と技術そして黄河と長江の二つの大河を持ちそこでの穀物の生産高故のことであったと思われれる、だがそれが国力の違いに出ていて。
漢はローマを圧倒しローマはそれを知って仰天しただろう、紀元の時代になってまだ二百年も経っていないが二つの帝国は同じ様で大きな違いがあった。それを知ることもまた学問ということであろうか。
そして国が違えばその国も人も呼ばれ方が違う、それはこの時代でも同じだった。果たして誰がローマ皇帝マルクス=アウッリアス=アントニウスを大秦王安敦と呼ぶだろうか。
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