六十 雨夜の月
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「心臓を狙われて機嫌が良くなる者がいるならお目にかかりたいものだな」
黒ゼツのおずおずとした言葉に、ナルトは依然として無表情で答える。
寒気がするような冷ややかな返答にゼツが何も返せないでいると、「なにをしている」とナルトから催促があった。
「お前は差し当たってこの事をペインに伝えろ」
角都の暴走。サソリとデイダラの死。そして角都の死。
その事を先に行って知らせろというナルトの指示を受け、白ゼツは「わ、わかったけど…その、ナルトは?」と恐る恐る問うた。
途端、ジロリ、と睨まれ、ゼツは竦みあがる。雨に洗い流されても猶、溢れかえる血臭が鼻についた。
そもそも、ナルトはゼツがずっと監視していたことを最初から知っていた風情だった。
それについてのお咎めだろうか、と恐々とナルトを窺っていると、苛立ちを孕んだ嘆息が零れた。
「俺は後始末をしてから行く…さっさと行け。今の俺は気分が悪い」
暗に、何をするかわからないと脅され、ゼツの身体が凍り付く。
バラバラに刻まれた角都の遺体を処理するのだろう、と解釈して、ゼツは慌てて血生臭い地面を蹴った。
言いつけ通り、ペインへ報告に行ったゼツの後ろ姿を暫し見送っていたナルトは、やがて手をさっと軽く仰いだ。
途端、噎せ返るほど充満していた血臭が瞬く間に消え去り、清涼な空気が常と変わらずに漂う。
ゼツの気配が完全に遠ざかったのを見て取って、ナルトは己の口許を手で覆った。
血と露の玉が連なる鋼糸が幾重にも張り巡らされている包囲網の中心。
血だまりに沈んだ凄惨な現場へ、雲間から月光が降り注ぐ。
月下にて、顔を伏せざまにナルトはくっと口角を吊り上げた。
手の下で秘かに零れた含み笑いは、誰一人として目撃していない。
見ていたのは、凄惨な殺戮現場を煌々と照らす、物言わぬ月だけだった。
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