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渦巻く滄海 紅き空 【下】
六十 雨夜の月
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誤魔化されまい、と凄まじい勢いと数がナルトを圧死せんと迫る。


触手の海を仰いでもナルトは表情ひとつ変えない。
それどころか、角都が立つ場所を見やると「ああ…気をつけろ」と何でもないように口を開いた。



「其処は危険区域だ」



それは遅すぎる角都への忠告だった。









刹那、角都の首がズルリ、とずれた。
否、首だけじゃない。

全身がバラバラに切り刻まれたかと思うと、遅れて血飛沫が迸る。
ぼとぼと、と角都だったモノが肉塊となって散らばる壮絶な光景を目の当たりにして、ゼツは息を呑んだ。



一瞬の出来事だった。
追い込まれていたはずが、逆に誘い込まれていたと気づくのが、角都は遅かった。


瞬く間に肉片となった角都から伸びる触手が主を失い、力をも失う。
勢いが削がれ、力なく地面へ横たわる触手の黒い海。噎せ返るような血の臭いが雨で僅かにでも洗い流されたのがまだ救いだった。


力尽きた黒い海を踏み躙り、何の感情も窺えない無表情でナルトは何でもないように呟いた。

「サソリとデイダラの心臓も一緒に刻んでしまったか…」



いつの間にか、張り巡らされていた鋼の糸。
人体など紙切れの如くあっさり切り刻むことが可能な、一歩間違えると術者の指をも切り落としてしまう厄介な糸が、角都の全身をバラバラに心臓諸共、分断したのだ。

まったくの無表情で悲惨な地獄を生み出したナルトを、木々の合間から遠目で見張っていたゼツはぶるり、と身体を震わせる。あの角都が一方的に惨殺された事実に、ゼツは震える声を絞り出した。

「よ、容赦ないね…」
「…ムカシノナルトヲオモイダスナ」


断末魔もあげず、あっさり終わった殺戮現場に、月光が注がれる。
雨足が次第に遠のき、暗雲が立ち込めていた空から月が顔を覗かせていた。


豪雨で巧妙に隠されていた鋼糸が微かに月の光を浴びて見えるようになる。
雨の露だけではなく、血の玉がいくつも真珠の如く連なっている糸が張り巡らされているその中心で、静かに佇むナルトの姿は、怖ろしくも美しい光景に思えた。





「おい、いるんだろう。出てこい」


突然、ナルトが視線を前方へ向けたまま、口を開いた。
ビクリ、と肩を跳ね上げたゼツが気のせいだろうと無視を決め込んだ直後、傍らの大木の枝がスパッと切れる。

綺麗な切り口は今しがた、角都をバラバラにした切り口と同じものだ。
サッと血の気が引いたゼツがナルトを見れば、彼はトントン、と軽く己の首を手刀で叩いている。


早く出て来なければ次は首を飛ばす、という仕草に、ゼツは慌てて潜んでいた茂みから飛び出した。


「…ズイブント、フキゲンダナ」

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